2021 Fiscal Year Annual Research Report
難溶性π電子系化合物のキャッチアンドリリースを可能にする動的超分子ケージの開発
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21J20598
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
緒方 大二 東京理科大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ケージ型錯体 / 非対称性配位子 / 超分子金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度での主な研究実績は、4段階の薗頭クロスカップリング反応を駆使することで、配位部位にピリジンとイミダゾールを有し、先行研究で報告した非対称配位子よりも約1.7倍ほど拡張させた新規非対称性配位子Lの合成に成功した。また、このLに対し、Pd(II)イオンを作用させた結果、吸収スペクトル測定により、段階的にLとPd2+イオンが4:1、2:1の量論比で錯体形成することがわかった。また、1H NMRおよび2D NMRや質量分析による精密な解析により、Pd2+イオンが低濃度ではML4型の単核錯体、高濃度では、MnL2n型のケージ錯体を形成していることが示唆された。実験結果から錯体構造についてモデル化し、密度汎関数理論(DFT)計算から、構造最適化によって分子モデリングを行った。また、配位部位のイミダゾールに対し、キラルアルキル側鎖を導入したキラル配位子L'を新たに合成し、このL'とPd(II)イオンを作用させて、ML4型単核錯体とMnL2n型ケージ錯体を形成させた。これによって、各錯体種は左右円偏光に対して、固有の吸収差を示すことから、円二色性スペクトルを測定した。各錯体種から実験的に得られた円二色性スペクトルと、分子モデリングした錯体構造について、時間依存密度汎関数理論(TD-DFT)計算により、理論CDスペクトルを予測した結果、両者は良い一致を示したことから、モデル構造が妥当であることがわかり、ケージ型錯体の形成が明らかになった。さらにDFTによる構造最適化によって、ケージ型錯体は約2 nmほどの直径の内部空隙をもつことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、ゲスト分子の可逆的な包摂と放出が可能な動的ケージ錯体を拡張し、よりサイズの大きいゲスト分子(π電子化合物)や複数のゲスト分子の包摂と放出を行い、最終的には包摂と放出を行うことのできるゲスト分子のライブラリーを完成させることである。 そのために、以下に示す研究計画に従って、研究を進めている。 a) 拡張型新規非対称配位子の設計および合成 b) 金属イオンと新規配位子との段階的な錯体形成の分光分析と、その錯体構造の評価 c) 動的ケージ錯体によるπ電子化合物やイオンを中心としたゲスト分子の包摂と放出の評価 前年度では、研究計画a)とb)について取り組む方針であったため、これらについて、重点的に研究を行った。具体的には、先行研究で報告した非対称配位子の骨格を1.7倍に拡張させ、配位部位にピリジン、イミダゾールを薗頭クロスカップリング反応によって導入することで、新規拡張型非対称配位子Lを合成した。また、研究計画b)についても取り組んでおり、配位子Lに対してPd(II)イオンを作用させると、吸収スペクトル測定、1H NMR測定によって段階的にLとPd(II)イオンが4:1, 2:1の量論比で錯体形成し、各段階で形成する錯体種について2D NMRから溶液中の錯体構造を同定を行うと、ML4型単核錯体とMnL2n型ケージ錯体を形成していることがわかった。さらに、溶液中のMnL2n型ケージ錯体構造を密度汎関数理論(DFT)によって構造最適化を行ったところ、ケージ錯体には内部に直径2 nmほどのゲスト分子を内包可能な大きさをもつことがわかった。したがって、前年度での研究計画であるa),b)はほぼ達成されていることから、本研究課題の進捗状況は、現在のところ、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度では、拡張型新規非対称架橋配位子Lを薗頭クロスカップリング反応により合成し、Pd2+イオンとの相互作用によって、1H NMRからML4型単核錯体とMnL2n型ケージ錯体の超分子錯体を段階的に形成することがわかった。本年度では、MnL2n型ケージ型錯体については、単結晶化を試み、内部空隙について単結晶X線結晶構造解析により詳細な知見を得ることを目指す。さらに、ML4型単核錯体とMnL2n型ケージ錯体が、溶液中において構成要素の量論比変調によって、構造転移を繰り返し行うことが可能か1H NMR測定から検討し、MnL2n型ケージ錯体がどのようなゲスト分子を包摂する可能か調べる。MnL2n型ケージ型錯体とゲスト分子の相互作用については、1H NMR測定や精密質量分析などにより評価する。また、MnL2n型ケージ型錯体が包摂可能なゲスト分子に対して、構成要素の量論比変調によるML4型単核錯体への構造転移に伴うゲスト分子の放出は、先行研究の方法に基づいて1H NMRの精密解析や、自己拡散係数の変化を調べるDOSY NMRなどによって評価を行う。ゲスト分子包摂ケージ錯体については、精密な2D NMRや密度汎関数理論DFTによる計算化学的手法により、どのような相互作用が働いているかを評価し、最終的には、単結晶X線結晶構造解析によって、その裏付けを行うことを目指す。
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