2022 Fiscal Year Annual Research Report
難溶性π電子系化合物のキャッチアンドリリースを可能にする動的超分子ケージの開発
Project/Area Number |
21J20598
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
緒方 大二 東京理科大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
Keywords | ケージ型錯体 / 非対称性配位子 / 超分子金属錯体 / π電子系化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度での主な研究実績は、(1)新規非対称性配位子LとPdイオンからなるM2L4型超分子ケージ錯体がビルディングブロックの量論変化のみで可逆的な構造転移が可能か、(2)ケージ錯体とゲスト分子との相互作用の有無について調べた。まず(1)について、1H NMR測定から、LとPdイオンの量論比を2:1にして合成した超分子ケージ錯体に、フリーのLを添加し、LとPdイオンとの量論比を4:1にすると、ケージ構造を持たない単核のML4型錯体へと構造転移した。次にPdイオンを加えてLとPdイオンとの量論比を2:1に戻すと、ケージ錯体に由来するNMRシグナルが再び出現した。さらにこのプロセスは繰り返し行うことができることを確認した。これにより、量論変化のみで容易にケージ型構造と非ケージ型構造の作り分けに成功した。次に(2)について、ケージ錯体を含む溶液に先行研究と同様な手法でPF6、SbF6, ClO4, BF4などをゲストとして添加し、その変化を1H NMRから追跡した。その結果、NMR解析からケージ錯体は、ゲストアニオンと1:1で相互作用し、結合定数が10^2-10^3であった。さらに、前年度においてケージの内部空隙が、約1.6 nm×1.2 nmであることが示唆されたため、このサイズに適した電子供与性のテトラチアフルバレンやフェロセンをゲストとして同様な実験を行った。その結果、結合定数が10 M^-1ほどで1:1の相互作用を行うことが分かり、このケージ錯体は電子供与性分子のような中性分子に対しても、ホストゲスト相互作用を示すことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、難溶性π電子系化合物の包摂と放出を可逆的に行う動的超分子ケージの創出を行っている。その目的は、当該研究者が開発した動的超分子ケージを拡張したケージ錯体を合成することで、よりサイズの大きいπ電子系化合物の包摂と放出を行い、最終的にはゲスト分子のライブラリーを完成させることである。そのために、以下に示す、研究項目に関して研究を進めている。 1. 先行研究より1,7倍拡張した新規非対称配位子と金属イオンとの相互作用により、拡張型動的ケージ錯体の創出 2. 動的ケージ錯体への包摂と放出が可能なゲスト分子の探索 具体的な項目としては、下記の研究計画に従う。a) 拡張型新規非対称配位子の設計および合成、b) 金属イオンと新規配位子との段階的な錯体形成の分光分析と、その錯体構造の評価、c) 動的ケージ錯体によるπ電子化合物やイオンを中心としたゲスト分子の包摂と放出の評価 今年度では、上記研究項目1にしたがって、研究計画のb)について重点的に研究を行った。具体的には、1H NMR測定から、LとPdイオンの量論比を2:1にして合成した超分子ケージ錯体に、フリーのLを添加し、LとPdイオンとの量論比を4:1にすると、ケージ構造を持たない単核のML4型錯体へと構造転移した。次にPdイオンを加えてLとPdイオンとの量論比を2:1に戻すと、ケージ錯体に由来するNMRシグナルが再び出現しこのプロセスは繰り返し行えることを確認した。次に上記研究項目2にしたがい、c) についても取り組んでおり、先行研究と同様にPF6、SbF6、ClO4、BF4などの無機アニオンゲストを包接することができた。さらにこの超分子ケージ錯体は、π電子系化合物のテトラチアフルバレンや電子供与性分子であるフェロセンといった中性分子とホストゲスト相互作用をすることを1H NMRから明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究で新規に合成したM2L4 型超分子ケージ錯体は、中性分子である電子供与性分子に対しても、ホストゲスト相互作用を示すことが明らかになったため、2D NMR解析や単結晶X線結晶構造解析、密度汎関数理論DFTを駆使し、どのような非共有結合性相互作用が生じているかを調査する。さらに、電子供与性分子を拡大し、ピレンやアントラセンといったπ電子系化合物をゲスト対象にし、超分子ケージ錯体とホストゲスト相互作用が可能かを1H NMRや精密質量分析、分光化学的測定から評価を行う。さらにX線結晶構造解析やDFT計算により、構造同定を目指す。さらにM2L4 型ケージ錯体のゲスト分子の包摂、ML4 型単核錯体への構造転移によるゲスト分子の取り出しについて 1H NMR から追跡する。本手法によりキャッチ&リリースを行うことのできるゲスト分子を明らかにし、そのライブラリーを完成させる。そして動的超分子ケージの構造転移機構を応用し、これらπ電子系化合物の溶解性の ON/OFF 制御や、それらを利用した加工プロセスが可能にする。
|