2022 Fiscal Year Annual Research Report
父方の血縁選択の働き易さからみる霊長類の社会性の進化メカニズム
Project/Area Number |
21J00922
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
石塚 真太郎 東邦大学, 理学部生物学科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 血縁選択 / 繁殖の偏り / 母子関係 / 霊長類 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類において、父方の血縁者間の血縁選択がどのように働き、それがどのように個体間の社会関係に影響しているのかについては十分に調べられていない。集団内に複数のオスが在籍する種では、オスの繁殖の偏りが大きくなるほど集団内の父方の兄弟姉妹の数が増え、父方の血縁選択が働き易くなることが予想される。本研究では、集団内の父方姉妹の数が異なるマカカ属の比較研究により、集団内の父方姉妹の数がメス間の親和・非敵対性に与える影響についての研究を進めている。 2022年度は、主に香川県小豆島のニホンザルの調査を行った。特にメス間および母子間の社会関係について詳しく調べた。分析の結果、母親はコドモ期の息子よりも娘と強い親和関係を形成することがわかった。これは、ニホンザルがメスだけが群れに留まる種であり、母娘間の関係が生涯継続するためだと考えられる。また、娘を持つ母親は他のメスとの親和関係が弱くなる反面、息子を持つ母親はそうでないことがわかった。コドモ期の娘を持つ母親は娘との関係構築に時間を費やす反面、他のメスと関わる時間は失われると考えられる。 また、父方姉妹の数を規定する要因を明らかにするため、オスの繁殖成功を評価する研究についても継続している。2022年度はニホンザルの新生児11個体の生物学的父親を特定し、若いオス(推定5-7歳)が多くの子を残していることがわかった。この傾向は、昨年度までに調べた35例の父子鑑定の結果と異なる。本結果によってニホンザルのオスの繁殖成功のパターンには継時変化が存在することが明らかになった。オスの繁殖成功についての理解を深めるためには、今後の継続調査が必要であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大や海外の研究チームの調査の事情により、インドネシアのムーアモンキーの調査を行うことができていない。そのため、父方の血縁者の数に応じた個体間の社会関係の違いを定量的に評価できていない。その一方で、ニホンザルの父方の血縁者の数を変動させるオスの繁殖成功の偏りや、個体間の親密さに影響する別の要因についての研究が計画以上に進んでいる。以上の理由により、計画はやや遅れていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、インドネシアのムーアモンキーとの比較、他地域のニホンザルとの比較の両可能性を視野に入れつつ本研究課題の遂行に努める。また、ニホンザルが父方の血縁者を識別しているかを明らかにするため、香川県小豆島でフィールド実験も継続する予定である。また、調査地で深刻化しているニホンザルの農作物被害問題の解決に貢献するため、同種の農作物選好性に関する研究にも取り組む。
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