2022 Fiscal Year Annual Research Report
光熱効果によるメカニカル結晶材料の多様化と可能性の拡大
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21J20125
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
萩原 佑紀 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 結晶アクチュエータ / 光熱効果 / 固有振動 / 高速屈曲 / 屈曲シミュレーション / 光熱変換材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
光や熱などに応答して動くメカニカル結晶はアクチュエータやソフトロボットへの応用が期待されている。これまでメカニカル結晶の大部分は光異性化に、一部は相転移に基づいて開発されていた。しかし、光異性化や相転移を起こす結晶は数が限られており、動きが遅く、照射波長が紫外光に限られていることが難点であった。私は2020年に、サリチリデンアニリン結晶が光熱効果により高速で屈曲することを初めて発見した。光熱効果は物質が光を吸収して励起状態になり、基底状態に戻る際に熱を放出する現象で、光を吸収するほとんどの結晶で起きる。このため幅広い結晶を対象にでき、あらゆる波長の光で結晶を高速で動かせる可能性がある。本研究で光熱効果により動く多種多様なメカニカル結晶を開発することで、光異性化や相転移では望めなかった、メカニカル結晶材料の多様化と可能性の拡大を目指す。 2022年度は、2021年度に新しく発見した結晶の固有振動について、形状と屈曲の関係を調べ、屈曲速度やエネルギー変換効率(光→運動)を算出した。2022年8月31日から2022年12月21日にかけてドイツのマックス・プランク研究所の、ソフトロボットの世界的権威であるMetin Sitti教授グループに研究滞在し、ソフトロボット応用に向けた結晶アクチュエータの開発を行った。その結果、光熱効果で屈曲する結晶に光熱変換材料をコーティングすることで、紫外光だけでなく可視光や近赤外光など、幅広い波長の光(365-810 nm)によって屈曲する結晶アクチュエータの開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、2021年度に検討したアニソール結晶の光熱効果で誘起される固有振動について、結晶の形状との関係を調べた。その結果、200-700 Hzで2-4°の共振固有振動が見られ、長く薄い結晶は大きく屈曲し、短く厚い結晶は高速で屈曲するという関係を見出した。このうち702 Hzで固有振動する結晶について、固有振動数の奇数分の1の周波数のパルス光を照射しても共振による屈曲の増幅が生じることがわかった。これらの共振固有振動について屈曲時の先端変位速度とエネルギー変換効率(光→運動)を算出したところ、既報のメカニカル結晶の中で最も高速(~0.6 m/s)かつ高エネルギー変換効率(~0.1 %)であることがわかった。本研究成果はハイインパクトジャーナルのNature Communicationsに掲載された(Nat. Commun., 2023, 14, 1354)。 次にメカニカル結晶のソフトロボットへの応用を目指して、2022年8月31日から2022年12月21日までの間、ドイツのマックス・プランク研究所のソフトロボットの世界的権威であるMetin Sitti教授グループにて研究滞在し、共同研究を実施した。当研究グループで紫外光による光熱屈曲を報告しているサリチリデンアニリン結晶(Mater. Adv., 2022, 3, 7098-7106)に、幅広い波長の光で光熱効果が生じる炭化チタン(ACS Nano, 2017, 11, 3752-3759)をコーティングした。その結果、紫外光(365 nm)だけでなく、可視光(455, 660 nm)や近赤外光(810 nm)で屈曲する結晶アクチュエータの開発に成功した。波長ごとの光熱変換効率と吸光度を考慮して熱伝導に基づく屈曲シミュレーションを行うことで、照射波長による屈曲挙動の違いを明らかにできた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の続きとして、光熱効果と固有振動により超高速で動く結晶の開発を行う。ヤング率の高いアミノ酸などの結晶は高い固有振動数を持つことが期待されるため、実際に光照射した際の固有振動の共振による高速屈曲を検討する。結晶の形状や向き、光の照射強度やパルス周波数を変えて屈曲への影響を明らかにする。また光異性化や相転移によって動く結晶について、光熱効果・固有振動との複合的な動きの創出を検討する。屈曲以外の多種多様な動きの創出も検討する。 さらに上記と並行して、実際に光熱効果や固有振動により屈曲するメカニカル結晶をアクチュエータ材料として応用する研究も推進する。光熱効果と固有振動を用いればあらゆる結晶を屈曲させることができ、シミュレーションにより動きの設計も可能である。そのため、メカニカル結晶は実際にデバイスやロボットに応用する段階に達したと言える。具体的なプロトタイプとして、高速結晶メカニカルリレーや物体輸送ロボットなどを作製し、光照射した際の動きなどの性能を評価する。有限要素法シミュレーションにより動く機構を明らかにする。 以上の成果を論文にまとめ、光熱効果で動くメカニカル結晶の多様化と可能性の拡大を目指す。
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Research Products
(8 results)