2022 Fiscal Year Annual Research Report
芳香環の脱芳香族的自在修飾法の開発と脂環式骨格構築
Project/Area Number |
21J22795
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
加藤 弘基 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 脱芳香族的官能基化 / パラジウム触媒 / 脂環式化合物 / 不斉反応 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
脱芳香族的官能基化は豊富に存在する芳香族化合物を多様な三次元骨格へと誘導可能であり、置換脂環式化合物の強力な合成法となりうる。しかし、当該手法の多くはフェノールの酸化的脱芳香族化やアジン類の求核的脱芳香族化など芳香環の電子状態に強く依存する。一方で、最も一般的なベンゼン類に対する脱芳香族的官能基化は、その高い芳香族安定性から困難とされており、化学量論量の金属反応剤もしくは過剰量の基質を要するといった課題がある。当研究室ではこれまでに、触媒的に生成可能なπ-ベンジル-Pd中間体の特異な反応性に着目し、ブロモアレーンとTMSジアゾメタン、炭素求核剤との脱芳香族的二炭素官能基化反応を開発した。本手法では、導入した炭素官能基を活用した誘導体化により種々の多置換脂環式化合物の迅速合成に成功した。 本年度は先に見いだしたブロモアレーンの脱芳香族的二炭素官能基化反応を不斉反応へと展開した。本不斉反応を確立できれば、脱芳香族化に続く誘導体化により連続不斉中心を有する多置換脂環式化合物の構築が可能となる。しかし、エナンチオ選択性の制御には綿密な触媒設計と膨大な量の不斉配位子検討が求められる。実際に市販および合成した不斉配位子を試したが、鏡像体過剰率は満足できる結果ではなかった。効率的な不斉触媒開発を目指し、共同研究により機械学習手法を用いた不斉触媒開発研究に着手した。研究遂行方針としては最小限の実験データと中間体構造の密度汎関数理論(DFT)計算のデータを収集する。これらを回帰分析することで不斉発現に重要な立体情報を可視化でき、この情報をもとに効率的な触媒最適化が可能となる。実際に得られた立体情報を活用して新規触媒設計することで高いエナンチオ過剰率を示す触媒の開発に成功した。また、抽出した立体情報及び遷移状態の活性化エネルギーを解析することで、想定と異なる不斉発現機構の提唱にも至っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はこれまでに見いだしたブロモアレーンの脱芳香族的二炭素官能基化を不斉反応へと展開した。共同研究により機械学習を活用することで、最小限の実験データとDFT計算の結果から不斉発現に重要な立体情報を抽出し、効率的に最適な不斉触媒を開発できた。さらに、可視化した立体情報や遷移状態の活性化エネルギー、さらには生成物のX線結晶構造解析の結果から想定とは異なる不斉発現機構の提唱に至っている。これまで当研究室で開発してきたπ-ベンジルPd中間体を鍵とする脱芳香族的官能基化はいずれも詳細な機構解明には至っていない。今年度の結果は、反応中間体や遷移状態を用いたデータ解析が遷移金属触媒反応の機構解明に貢献できることを示す。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、不斉発現機構を解明し本成果を論文としてまとめることで、機械学習によるデータ解析が触媒反応機構解明の一助となることを示す。 本成果の論文投稿後は、脱芳香族的アルキル化の位置選択性の課題解決に挑む。見いだした脱芳香族的アルキル化において、炭素求核剤の反応位置は芳香環上の置換基との立体障害に依存していた。様々な置換様式の脱芳香族化体を自在に合成可能な手法へと展開すべく位置選択性の触媒制御を目指し、機械学習手法を用いた触媒開発を試みる。不斉反応では実験により得られる鏡像体過剰率を機械学習のデータに用いていた。位置選択的脱芳香族化では、構造異性体の生成比とDFT計算により算出される反応中間体のエネルギー差を機械学習のデータとして用いることで、位置選択性発現に重要な立体情報を抽出できると考えている。
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