2022 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭ロシアの「個」をめぐる思想に対し、中世思想の受容が果たした役割の分析
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22J00069
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
細川 瑠璃 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ロシア思想 / 20世紀の思想 / 宗教思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、20世紀初頭のロシア宗教思想に現れる「中世」への言及を収集し、当時の「中世」受容およびその意味付け・位置付けの分析を行うことを目標とした。本年度の成果は以下の通りである。
・20世紀初頭の思想家パーヴェル・フロレンスキイのテクストにおける中世の表象と、ドイツの詩人ノヴァーリスにおける中世ヨーロッパ像とを比較し、その一端を論文「花粉から花序へ:「個」をめぐるロシア思想とノヴァーリス」にまとめた。 ・ルネサンスを経験していないロシアにおいて、中世という時代区分は西欧におけるそれと比較して曖昧である。にもかかわらず、20世紀初頭の思想家たちは往々にしてロシアの「中世」について語り、それをロシアの国家としての、あるいはまた民族としてのアイデンティティの拠り所と見做している。そこで本研究においては、「中世」という共同のイメージが形成される過程を分析するにあたって、ロシアという国家の問題、国家と宗教(主に正教)の関わりの問題をまず追究する必要があると認識するに至り、先述のフロレンスキイや、同時代の思想家レフ・カルサーヴィンの国家論、教会論の研究を行った。その結果の一部を、シンポジウム「国家と宗教」において、「20世紀初頭のロシア宗教思想における国家観」というタイトルで発表した。当シンポジウムでは、フランス、ロシア、インド、中国における国家と宗教の関係を考えることが目指されており、私はロシアを担当したが、全体討論において、ロシア以外の視点、特に歴史区分や宗教・国家の定義からして西欧とは異なる中国とインドの視点と比較することができ、非常に有意義であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻により、大きな影響を受けた。当初の計画では、本年度はロシアに渡航し、モスクワやセルギエフ・ポサード、ノヴゴロドといった都市に滞在して資料収集を行う予定であったが、科研費を使用しての渡航を所属先の早稲田大学に願い出たところ、受入教員からの賛同を示す理由書を得ることができず、渡航が不可能となった。そのため、ロシア国外で入手可能な資料のみに頼ることとなり、研究が遅れざるをえなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、当初予定していたロシア渡航ができず、ロシア国内での資料収集が困難な状況となっている。2023年度以降の情勢については誰にもわからないが、今後もロシア渡航が難しい状況が続くことが予想される。そのため、現地で資料を得ることができない場合は、ポーランドなどロシアの近隣国や、イギリスなどロシア思想研究が進んでいる国に渡航し、現地の研究者と交流して最新の研究動向を追うことを目指す他、史料に依拠した歴史学的研究から、よりテクストの分析に重点を置く思想研究へとシフトすることを考えている。
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