2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J01166
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
女川 亮司 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 運動意思決定 / リスク態度 / メタ認知 / 運動制御 / 運動計画 / 意思決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、運動場面の意思決定におけるリスク態度の主観評価と客観評価の間の差異について検討した。具体的には、先行研究で示されてきた運動場面でのリスク志向バイアスがリスクを取ろうとする主観的な態度によるものか検討した。結果として、客観的なリスク態度と主観的なリスク態度がよく一致し、自由に選択する場面では、リスクを主観的にとろうとした結果として客観的なリスク志向バイアスが存在することが示された。これらの結果から、人がリスク態度に関してほぼ最適な計算をできるものの、戦略的選好によってリスク志向バイアスが生じる可能性が考えられた。 また、同様の運動意思決定課題において、チャンスの回数がリスク志向バイアスにどのような影響を与えるかを調査した。具体的には、同じ運動意思決定課題をおこなう中で、チャンスの回数を実験的に操作した。結果として、チャンスが1回しかない場合は、チャンス数が多い場合に比べ、よりリスクを回避した行動が選択されることがわかった。このようなチャンスの回数に応じた行動変容を説明するために、チャンスの数による結果の変動性を考慮した意思決定モデルを提案した。この発見は、運動意思決定においてチャンス数が考慮すべき重要な変数であることを示す証拠を提供している。 加えて、運動パフォーマンスに対する確率分布表象の特徴を検討した。具体的には、反応課題を数十試行おこない、各試行で反応時間のフィードバックを受けた後に、反応時間の分布を参加者に推定させた。結果として、人は反応時間の表現において、実際の分布よりも広い分布を表現する傾向があることが示唆された。このバイアスは、確率の低い事象を過大評価し、確率の高い事象を過小評価するという、確率知覚における偏在的なバイアスと一致する。この確率表象バイアスは、自分の報酬率を最大化する行動を選択することを困難にする可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、当初の予定通り、オンライン実験系での運動課題を新規に開発することで、短時間で多人数の行動データを取得することができるようになり、そのシステムを活用することで、実験を加速化させることに成功した。そして、そのシステムによって得られた研究成果(詳細は、研究実績の概要に記載)をプレプリントとして公開し、国際誌への投稿をおこなうなど、3稿の論文をまとめるまで研究を進展させた。加えて、それらの研究の一部は、日本基礎心理学会にて受賞するなどの成果を得たことからも、研究成果の新規性が高く評価されるものであったと考えられる。 当該年度に開発した実験系を転用することで、当初予定していた、運動意思決定のモデル化およびその利活用へと結びつけることが期待できる。加えて、当該年度に発見した人の行動傾向の理解を進めるための研究もあわせて行なっていくことで、当初の予定にはなかったものの運動意思決定の包括的な理解につながる知見が得られると考えられる。以上を総合的に評価し、当該年度において研究がおおむね順調に進展したと評した。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度では、人の運動意思決定における主観および客観的な認知バイアスを、行動の選択と表象のそれぞれで明らかにした。個人間で類似した認知バイアスが存在することから、バイアスの背景には人の意思決定の普遍的な特徴が潜んでいる可能性がある。 今後の研究期間において、これらの認知バイアスの背後に存在するメカニズム/機序を明らかにすることで、人の意思決定の特徴の理解が深まると期待できる。そのために、行動およびその結果に伴う生理応答・心理応答をより詳細に記録し、それらと行動の間の関係性を評価することを計画している。 加えて、これらの認知バイアスは人のパフォーマンス発揮を妨げる要因となりうるため、バイアスを解消する方法を開発することで、研究成果の応用可能性も期待できる。そのために、今後の研究では、課題実施時の介入(教示、報酬、外乱など)が行動変容にいかなる影響を与えるかを評価し、バイアスを解消するための適切な手法を明らかにしていくことを計画している。
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