2022 Fiscal Year Annual Research Report
モロッコ・ナショナリズム運動再考:アラブ地域の思想と秩序をめぐる政治運動への視座
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22J13548
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡邊 文佳 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | モロッコ / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は海外史料調査と国際学会発表1件を行った。海外史料調査については、6月から9月にかけて、主にモロッコ(ラバト)の国立図書館やアッラール・ファースィー財団資料館において、ナショナリズム運動家らの定期刊行物や著作物、政党機関紙等の史料を収集した。7月にフランスの外務省文書館において、アッラール・ファースィーなどモロッコ人指導者の国外での宣伝活動に関連した監視記録等を調査した。1930年代~50年代にまたがるこれらの史料からは、モロッコ人活動家がアラブ地域諸国の動向に関して継続的な情報収集と分析を行っていた様相や、エジプトを拠点とした活動家の具体的な足跡が判明し、アラブ地域との密接な関係がモロッコ・ナショナリズム運動の形成と展開において重要であったことが確認された。発表については、12月にモロッコ(アガディール)で開催された国際会議“Memory and Identity in North Africa”において、“How to Mark“the First”in Moroccan History: Nationalist Narratives in Arabic Periodicals in the 1930s”と題した発表をした。発表では、1930年代のアラビア語雑誌に基づき、ナショナリズム運動家がどのようにモロッコの「歴史」を書こうとしたのかという問題、特に、彼らがモロッコの歴史上最初に登場した事物、例えばモロッコで最初に建てられたマドラサ、近代的職業に携わる人物をどのように表現しているのかを検討した。発表では、それらの表現がモロッコの知的・教育的伝統の真正性及び近代的近代的発展を主張するナショナリスティックな語りの一端であったこと、こうした語りの背後にモロッコの周縁性や近代的発展の遅れといった、アラブ地域の重層性に由来する複雑な意識があったことを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外史料調査を行い、収集した史料の一部を活用して発表を実施できた。当初の計画ではナショナリズム運動の思想面と政治運動面について、本年度は前者を調査・分析する予定であったが、実際には両者に関わる史料群を同時に調査したため、当初の手順通りではない。ただ、そのように包括的な史料調査を行った結果、「モロッコの出来事の歴史化と歴史叙述」や「ラジオ放送を通じた宣伝活動」といった具体的問題からナショナリズム運動の思想面と政治運動面にアプローチする見通しを得られたことは、大きな収穫であった。研究課題全体として見れば、モロッコ・ナショナリズム運動をアラブ地域の中の運動として考察する作業はおおむね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらなる史料調査と成果の発信を行う。前者については、2023年度中にモロッコ、フランス、エジプトでの海外史料調査を実施し、ナショナリズム運動家の言動を示す基礎的史料の収集を継続すると同時に、2022年度に見通しを得られた「モロッコの出来事の歴史化と歴史叙述」や「ラジオ放送を通じた宣伝活動」といった具体的テーマに沿ってモロッコ・ナショナリズム運動とアラブ地域の関係性を検討する予定である。年度後期にかけて成果のまとめに取りかかり、国際ワークショップでの口頭報告、中東・北アフリカ研究の専門誌への論文を投稿を予定している。
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