2022 Fiscal Year Annual Research Report
グリア細胞-乳がん細胞間相互作用に着目したがん増殖機構の解明
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22J13644
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
黒岩 由佳 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 乳がん / 脳転移 / グリア細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳がんは比較的予後良好ながんであるが、脳へ転移すると生存率は著しく低下する。一般に、脳転移と診断される頃にはがん細胞が脳で顕著な増殖を遂げていることから、我々はがん細胞が脳へ転移する過程ではなく、脳へ転移した後の増殖を阻止することが治療に重要だと考え、脳局所でのがん増殖機構の研究を行ってきた。これまでに、9種類の乳がん細胞株の中から脳で顕著に増殖する細胞株を2種類同定し、これらの細胞株がグリア細胞に接着しながら増殖することを見出した。そこで2022年度は、グリア細胞-乳がん細胞間相互作用に着目し、脳局所における乳がん細胞の増殖に重要なシグナル経路の探索を行った。解析の結果、グリア細胞に接着しながら顕著に増殖する2種類の細胞株では、糖代謝に関与する2遺伝子の発現が上昇しており、これらの遺伝子を高発現する患者は予後不良であることを見出した。現在、当該遺伝子のノックダウンによる脳での増殖評価を進めている。加えて、脳で顕著に増殖する2種類の細胞株はともにエストロゲン受容体(ER)陰性かつアンドロゲン受容体(AR)陽性であり、このうち1株ではARが特に強く発現していることを見出した。さらに、公共データの再解析から、脳へ転移したがん細胞(脳転移株)では転移前の細胞株(親株)に比べてARの発現が上昇していることが明らかになった。脳においては、循環中のアンドロゲンの移行に加えて、グリア細胞からもアンドロゲンが産生される。これらの知見から、グリア細胞-乳がん細胞間でアンドロゲンシグナルを介した相互作用が存在するのではないかと予想した。これまでに、各細胞株のin vitroでの増殖に対するアンドロゲンの作用評価を完了し、現在がん細胞と脳微小環境の相互作用をトランスクリプトーム解析によって明らかにする計画を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、脳局所においてがん細胞の増殖に寄与する遺伝子やシグナル経路の候補を絞り込むことができた。まず、発現変動遺伝子の解析から、脳で高い増殖能を示す2種類の細胞株に共通して、糖代謝に関連する2遺伝子が高発現していることを見出した。加えて、生存解析の結果、これらの遺伝子を高発現する患者は予後不良であることが明らかになった。以上の結果は、特定した2遺伝子が脳での増殖に寄与する可能性を示唆するものである。既に当該遺伝子をノックダウンした細胞株を樹立済みであり、現在はノックダウン細胞の脳での増殖評価を進めている。また、2022年度の研究計画には記載していなかったが、先行研究で樹立された脳転移株の遺伝子発現データを再解析した結果、脳転移株では転移前の親株に比べてARの発現上昇が見られることが確認された。本研究で用いた9種類の細胞株では、ARの発現量と脳局所での増殖能の間に相関関係は認められないものの、脳での増殖が顕著な2株はともにAR陽性であり、内1株は特に強くARを発現している。一方、グリア細胞は脳内のコレステロールを原料としてアンドロゲンを生合成することが知られている。以上の点を考え合わせ、グリア細胞-がん細胞間でアンドロゲンシグナルを介した相互作用が存在するのではないかと着想した。アンドロゲンはアロマターゼによって代謝されエストロゲンとして作用し得るものの、本研究により脳で顕著に増殖することが示された2株はともにER陰性であることから、ERを介さない経路によって脳での生存・増殖が達成されることが示唆される。これまでに、各細胞株のin vitroでの増殖に対するアンドロゲンの作用を評価し終えており、現在は実際の脳での増殖に対する影響を評価する計画を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の研究結果を踏まえ、(1)接着シグナルを介したグリア細胞-乳がん細胞間相互作用の解析、(2)アンドロゲンシグナルを介したグリア細胞-乳がん細胞間相互作用の解析、の2方面から研究を進める。(1)では、まず実際の脳において増殖中のがん細胞周囲に集積するグリア細胞種の同定を目指す。具体的には、がん細胞をマウスへ移植して脳転移巣を形成させた後、脳切片を作製して各種グリア細胞のマーカーおよび病態に特徴的なマーカーの抗体を用いた組織免疫染色を行う。また、同定したグリア細胞種とがん細胞の共培養を行い、がん細胞の増殖状態や形態、グリア細胞との接着具合などをタイムラプスイメージングによって観察することで、増殖期におけるグリア細胞およびがん細胞の動態を明らかにする。加えて、がん細胞とグリア細胞が接着した状態でやりとりされるシグナルを明らかにするため、両細胞の混合培養下でのRNA-seq解析を行う。各細胞の単独培養時と共培養時の遺伝子発現を比較することで、相互作用によるグリア細胞側・がん細胞側それぞれの遺伝子発現変化を明らかにする。(2)では、まずアンドロゲンシグナルと脳局所における増殖能の関連性を検証する。現時点で、公共データを用いた再解析から、脳転移したがん細胞では転移前に比べてARの発現が上昇していることを見出している。今後は、申請者独自の脳転移株(樹立済み)でも同様の結果が再現されるか確かめるため、アンドロゲンシグナルに関与する遺伝子の発現量をqPCRおよびウエスタンブロッティングにより調べる予定である。また、実際の脳におけるアンドロゲンシグナルの機能を明らかにするため、ARをノックダウンしたがん細胞をマウスへ移植し、脳での増殖評価も行うことも計画している。
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