2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of crystal actuators based on photothermal-induced natural vibration
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22KJ2958
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長谷部 翔大 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 結晶アクチュエータ / アントラキノン / ソルベントグリーン3 / 光熱効果 / 固有振動 / 共振 |
Outline of Annual Research Achievements |
光を当てると屈曲などの巨視的な動きを示すフォトメカニカル結晶はアクチュエータやソフトロボットへの応用が期待されている。しかしその大部分は光異性化に基づいており、対象の結晶が限定されるほか、動きが遅い、紫外光でしか動かせないなどの欠点があった。2020年に当研究グループは光が熱に変わる「光熱効果」によって結晶が高速で動くことを発見し、光を吸収するあらゆる結晶を高速で動かせる可能性が示唆された。しかしながら光熱効果による屈曲は動きが小さい欠点があった。最近当研究グループはアニソール結晶に紫外光を当てると、光熱効果により固有振動が誘起・共振され、高速でかつ大きく屈曲する現象を発見した (Y. Hagiwara, S. Hasebe, et al. Nat. Commun. 2023, 14, 1354)。この結果を踏まえ2022年度に私は可視光や近赤外光で動く結晶を開発するため、紫外領域に加え可視、近赤外光の広い領域 (400-850 nm) に吸収をもつアントラキノン染料のソルベントグリーン3 (SG3) に注目した。光熱効果で1次の固有振動 (70 Hz) を誘起・共振させることで70 Hzで大きく結晶を屈曲させることに成功した。この動きは紫外、可視、近赤外光、さらに連続光を含むハロゲンランプでも創出できた。 2023年度は引き続きSG3結晶に注目し、光熱効果で高次の固有振動を誘起させることで、結晶が高速で蛇行するという前例のない動きの創出に成功した。ギターを弾くように、一本の結晶を支える位置を変えるだけで周波数のチューニングにも成功した。一万サイクル以上繰り返し屈曲させても劣化せず、極めて高い耐久性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2022年度に紫外、可視、近赤外の広い領域に吸収をもつアントラキノン染料のソルベントグリーン3 (SG3) に注目し (Chem. Mater. 1997, 9, 1319-1327)、可視光や近赤外光で動く結晶の開発に取り組んだ。針状SG3結晶の一端を固定し、上から光を照射すると光熱効果による屈曲に付随して70 Hzの1次の固有振動が見られた。70 Hzのパルス光を照射すると共振により固有振動が増幅され、70 Hzで大きく屈曲させることに成功した。この大きな屈曲は紫外光、可視光 (青、緑、赤)、近赤外光、連続光を含むハロゲンランプでも創出できた。 2023年度にはSG3結晶の光熱誘起固有振動による動きを更に詳細に検討した。2022年度には70 Hzの1次の固有振動による屈曲を観察したが、更に高次の固有振動も誘起できるのではと思いつき、より高周波の紫外パルス光を照射し、動きを観察した。結果、2次 (530 Hz) と3次 (1350 Hz) の高次の固有振動も起きることを初めて発見した。この高次固有振動を共振させると結晶が高速で蛇行するという前例のない動きの創出に成功した。この蛇行運動は紫外光のみならず、可視光や近赤外光でも創出できた。 またこれまでの実験は結晶の一端を固定したカンチレバーの屈曲運動を観察したが、結晶を途中で支持した際の動きも観察した。固有振動数は長さの2乗に反比例することから、ギターのように途中で支える位置を変えることで振動数のチューニングに成功した。SG3結晶は弾性結晶であり自身の88倍の重量の重りを乗せても折れない上、重りを乗せたまま結晶の共振を誘起させることで、重りを16 Hzの高速で上下に大きく屈曲させることにも成功した。この屈曲運動を10000サイクル以上行っても結晶は劣化せず、極めて高い耐久性を示すことがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
SG3結晶の研究を引き続き遂行する。SG3結晶が自身の88倍の重りを16 Hzで上下に大きく動かせることがわかったため、出力特性の評価を行う。具体的にはアクチュエーションの評価指標である仕事 (移動距離×力、J)、仕事率 (1秒当たりの仕事、W)、出力密度 (単位体積あたりの仕事率、W/m3)、エネルギー変換効率 (仕事/吸収した光エネルギー %)を算出し、既存の光駆動アクチュエータと比較する。また、基板上に静置(両端自由)した結晶を固有振動で高速屈曲させることで基板上を走る結晶ロボットの開発に挑戦する。性能が良い結晶に対してはアクチュエータとして物体を運搬させ、上述のアクチュエーションの評価指標を計算することで出力特性を評価する。 さらに、SG結晶の屈曲運動は分子が光を吸収し、熱を発生することで生じるため、照射光の偏光方向に応じて吸収される光の量が変化し、動きも異なると考えられる。光異性化で屈曲するジアリールエテン結晶については、照射光の偏光方向と屈曲挙動の関係は明らかになっていたが (CrystEngComm, 2019, 21, 2495-2501)、光熱効果や固有振動で動く結晶に関しては未検討であった。そこで2024年度には、照射光の偏光方向と屈曲挙動、特に屈曲の最大変異、先端速度、周波数依存性の関係を詳細に調べる。2022、23年度に実施した内容と合わせ2024年度中のハイインパクトジャーナルへの論文投稿を目指し、光熱誘起固有振動で駆動する結晶アクチュエータの可能性を拡大する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:2023年に「公益財団法人 池谷科学技術振興財団 単年度研究助成」(課題番号: 0351227-A) に採択されたことから、2023年度に購入予定だった機器、消耗品の一部をこちらの研究助成から支出したため。また2023年度開始時点で依頼測定予定だった実験項目の一部が、大学の研究設備でも実施できることが分かり、依頼測定の必要がなくなったため。 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画:国内外の学会参加費、交通費として30万円、機器・消耗品代として20万円、論文掲載料として50万円を支出予定である。特に円安と大学からのオープンアクセス費の助成額が2024年度より減額となった影響で、論文掲載料として当初の予定より多額の支出を予定している。
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