2022 Fiscal Year Annual Research Report
個性に着目した森林性大型動物の市街地進出の要因解明と新たな個体群管理手法の開発
Project/Area Number |
22J00864
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
森 智基 名城大学, 農学(系), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 軋轢 / ツキノワグマ / バイオロギング / 採食戦略 / 集落利用 / 個体レベル |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、ツキノワグマをはじめとする大型野生動物の市街地への棲息域の侵入・拡大が国際的な問題となっている。本研究は、バイオロギング技術と野外での内分泌学的手法を組み合わせ、集落を利用するツキノワグマの特徴を警戒心の強さ、性や齢などの属性、採食戦略、栄養状態から明らかにすることを目的としている。 当該年度は、長野県上伊那地域において計8頭のツキノワグマにGPS首輪を装着し、追跡個体の行動調査と糞収集を行った。GPS首輪によって得られた追跡個体の位置情報と糞内容物をもとに、集落近辺を利用するツキノワグマの食性の特徴について解析を行った。集落近辺を利用するツキノワグマは、おもに夏季に集落近辺を利用し、集落近辺に生育しているウワミズザクラやミズキ、オニグルミなどの果実類とアリ類などの昆虫、農作物を採食していた。体重が大きい(身体が大きい)個体ほど農作物を利用する割合が高く、農作物への依存性が認められた。また、メスグマはアリ類を多く採食する傾向があった。それに対し、集落から離れた場所で活動するクマは、集落近辺のクマと比べてアリ類の採食割合が高かった。集落から離れた地域とくらべて集落近辺には農作物を含む多様な採食物が生育しており、集落近辺を利用するクマは、集落から離れた場所で活動しているクマよりも高い栄養素を摂取している可能性がある。また、個体(性や齢)の属性に対するマクロ栄養素最適化もしやすいと考えられる。現在、これらの成果を国際誌に投稿する準備を進めている。 今後は、糞中ホルモン分析などの内分泌的視点から、集落近辺でのクマの警戒心について定量化を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、集落近辺と山側を利用するツキノワグマの食性の比較から、集落近辺を利用する個体の食性の特徴に関する研究成果が得られてきており、併せて採食物の栄養バランスなども明らかにしつつある。これらの成果は、夏季のクマの出没機構の解明だけでなく、採食生態においても重要な知見を与えると考えられる。現在、成果の一部が国際誌へ投稿する準備が進められている。今後は、地理情報システム(GIS)ベースで個体属性(性や齢)での利用環境の特徴を把握するとともに、糞中ホルモンの解析が進められていく予定である。 全体として、現時点まで研究は順調に進展しており、期待どおりの研究成果が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、ツキノワグマを捕獲してGPS首輪を装着する。当該個体の新鮮な糞を採集するとともに利用環境の調査を実施する。2016~2023年の8年間にわたって得られた捕獲時に記録した性/齢の情報、採食したエサの種類と栄養価、利用場所(集落からの位置)を統計モデルで解析することで、集落を利用するクマの特徴を明らかにする。さらに、糞中ホルモンの分析も進めていく。
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