2022 Fiscal Year Annual Research Report
乳幼児における視線知覚と社会的学習の神経生理的関係
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21J00466
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
石川 光彦 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 視線計測 / 乳児 / 表情 / 報酬 / 行動価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、渡航先であるロンドン大学バークベック校において、行動価値に基づく乳児の社会的行動として表情刺激に対する視線行動に着目し、実証的に検討を行った。乳児を対象とした視線計測研究では、乳児は興味のある視覚刺激に対して長く注視を行う性質があるとされ、2つの刺激を同時に呈示しどちらを長く注視するかを調べる選好注視法が用いられてきた。一方で、乳児はネガティブな視覚刺激に対してポジティブな刺激よりも長く注視をするというネガティビティバイアスをもつことも報告されてきた。そのため、表情刺激に対する選好注視研究では、乳児は笑顔刺激を長く見るという結果と、怒り刺激を長く見るという結果の両者が報告されており、結果が一貫していなかった。以上の先行研究の結果から、選好注視法は乳児の視線行動が行動価値に基づいているのかについては検討できない手法であると考えられた。そこで、本研究では、笑顔、中立顔、怒り顔、の3つの顔から2つの顔ペアを繰り返し提示し、各顔の位置を学習させた後の予測的視線を計測することで、顔に対する乳児の注視行動が行動価値に従っているのかについて検討した。その結果、乳児は各顔の位置を学習した後には、相対的にポジティブな表情刺激に対して予測的視線をみせることが示された。この結果から、乳児の予測的視線は呈示される刺激の価値計算を行った結果として実行される行動であることが示唆された。本研究は、現在英語での論文執筆を行っているため、来年度には国際誌に論文が掲載されることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度までに行った研究の公表、今までの研究成果をもとにした理論の提唱・総説論文の執筆、渡航先である英国での乳児を対象とした実証研究を行った。 まず、PD受け入れ先である同志社大学の赤ちゃん学研究センターで昨年度行っていた乳児を対象とした共同注意場面での脳波測定研究の成果をまとめ、論文は国際誌Social Neuroscienceに掲載された。そのほかにも、今年度全体では、国際学会1件、筆頭著者として原著論文3本(すべて国際誌)、そして国際共同研究の論文1本(国際誌)の成果報告を行い、順調に研究業績を重ねている。 実証研究のみでなく、博士課程在学時に行った研究の結果を踏まえて、乳児の文脈に応じた社会的行動が行動の価値計算にもとづいているとする行動価値計算モデルを形成した。このモデルは、一流国際誌であるTrends in Cognitive Sciencesに掲載され、今後の社会的認知・行動研究のフレームワークの1つとなることが期待される。また、これまでの研究で用いてきた生理学的指標(心拍、瞳孔計測など)の経験を活かし、近年の生理学的指標を用いた心理学研究の総説論文をヨーロッパ心理学連合が発行するEuropean Psychologistから出版した。 以上の実績から、当初の計画以上に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトのこれまでの研究から、乳児が社会的場面へ従事する際や、視線追従行動などの社会的行動を表出する際には、報酬を期待していることが神経生理学的手法から示されてきた。これらの研究では報酬期待が社会的行動を予測することは実証的に検討できていたが、報酬期待によって駆動された社会的相互作用の中での社会的学習についてまでは未検討であった。アイコンタクトなどのコミュニケーションの意図を伝える手がかりによる視線追従行動の促進は、社会的学習の促進へとつながることが示唆されてきた (Csbra & Gergerly, 2009)。視線追従行動などの社会的行動が報酬期待によって駆動されているならば、報酬期待によって社会的学習時の情報処理の深さに影響していることが考えられる。そこで、プロジェクト最終年度である次年度は、これまでに確立してきた報酬に着目した社会的行動のメカニズムを社会的学習にまで拡張できるかを実験で検討する。 実験では、一般に視線追従行動を行うとされている生後6カ月児を対象にする。視線追従場面での視線行動と心拍の同時計測を行う。視線追従場面では、画面中央の女性が条件ごとに異なる行動をした後に、左右に置かれた物体に対して視線を向ける映像を用いる。女性が目を開けてアイコンタクトを行うアイコンタクト条件、目を閉じたままの閉眼条件を設定する。各条件4試行ずつ呈示し、女性が物体に視線を向けた後に乳児がどちらの物体に視線を最初に向けるかを視線追従の指標とする。また、視線追従行動直前での心拍を報酬期待の指標として計測する。視線追従課題後、視線追従場面で提示されていた物体2つを同時に呈示し、どちらを長く注視するかを情報処理の深さの指標として計測する。報酬期待を反映する心拍が、視線追従行動の頻度や、視線追従後の物体の情報処理に影響するのか分析を行うことで、社会的学習と報酬期待の関係を検討する。
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Research Products
(9 results)