2020 Fiscal Year Annual Research Report
A Study on Subtle and Ambiguous Phenomena of Discrimination and its Countermeasures: Using Microaggression as a Key Concept
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20J11996
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
蒔田 朴希沙 立命館大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | マイクロアグレッション / 差別研究 / 心理社会的支援 / 在日コリアン / セクシャルマイノリティ / 女性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、①現代日本における曖昧な差別マイクロアグレッション(以下、MA)の実態とその特徴の一端を明らかにするとともに、②そのような葛藤場面に出会ったマジョリティに生じ得る反応を追い、自らの社会的立場を自覚することによっ て生じるマジョリティの変容過程を明らかにすることを目的とする。 今年度の上半期は、まずMAの実態調査(グループ・インタビューによるインタビュー調査)を、当初の計画通り在日コリアン、セクシャルマイノリティ、女性に対してのべ14回実施した。グループインタビュー実施にあたっては、各種当事者団体(在日コリアン民族団体等)と密に連絡を取り合い、信頼関係を構築した上で協力者を募った。インタビュー調査ではMAについて紹介するワークショップを行った後、3名から5名のグループインタビューを行った。また本研究の特徴は実態調査に留まらず心理化されない臨床的実践にも活かせる差別研究を行うことである。そのため差別実態の聞き取りにとどまらず、MA体験時の心理的状態やその後の各自の対応方法についても聞き取り、逐語録に起こした後、それらを認知・行動・感情・身体反応の側面から分類し、それぞれの特徴や対応策について検討を進めている。この過程では臨床心理士としての専門性も活かすよう心がけた。 また米国におけるMA基礎文献である『Microaggressions in Everyday Life : Race, Gender, and Sexual Orientation』(Sue,2010)の翻訳書の出版準備を進め、研究会を行いMAについて探求するとともに訳を完成させた。本書は『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッションー人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』として明石書店より今年中に出版される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、研究①MA の日本的特性と実態調査(グループ・インタビューによるインタビュー調査)と、研究②日本人によるマジョリティ当事者研究に関する分析(参与観察及びインタビュー調査)から成る。今年度上半期において、①のインタビュー調査をのべ14回に渡り実施することができ、また②に関しては計画通り日本人のマジョリティ性に関する当事者研究グループ(通称 J グループ)との信頼関係構築及び調査依頼を行い内諾を得ることができた。 ただ、①のインタビュー調査に関しては、在日コリアンについては十分な聞き取り調査が実施できたもののセクシャルマイノリティに関しては来年度に追加調査が必要になる、もしくは対象を狭める必要があることが予想される。これは、セクシャルマイノリティといってもLGBTQそれぞれの当事者性に違いが大きいためである。LGBTQそれぞれの当事者に幅広く調査を実施するか、現段階で調査協力してくださった当事者(トランス女性)を中心に対象を当初より狭めより深い調査を実施するか、今後の検討課題としたい。なお女性に関しては一旦分析を行った上で追加調査の有無については検討したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで実施したインタビュー調査の内容をすべて逐語録におこした後、分析を行う。分析方法としては、MA研究でよく用いられる方法であるMAの3分類(マイクロアサルト、マイクロインサルト、マイクロインバリデーション)への分類分け、MAのテーマの同定、代表例の同定を行っていき、その日本的特性を探る。また、調査協力者のMA体験時の心理状態やその後各自が行っている心的・社会的対処方策についても分析し、差別の実態を心理社会的側面から明らかにする。それらの結果は論文にまとめた後多文化精神医学会に投稿する予定である。 また2019 年に投稿論文として『質的心理学研究』に掲載された「『してもの会』におけるRespectfulRacialDialogueの実践――在日コリアンと日本人の『分断から動き出す交流』」を英訳し、American Psychological Association(APA)の学会誌『Qualitative Psychology』に投稿する。原著でなく英訳での投稿をすることについてはすでに日本質的心理学会およびAPAより承諾を得ている。これによりMAに対抗する対話の形として研究者が提唱した「Respectful Racial Dialogue」についての議論を米国の研究者と行いたい。 これらと並行し、日本人の当事者研究グループ(Jグループ)への参与観察とインタビュー調査を実施する。その上で日本の MA 被害の実態調査及びその特性と、マジョリティの変容プロセスに関して、両者がどのような関係にあるのかを考察する(研究①と 研究②の接続、 Respectful Racial Dialogue に関する研究の続き)。それをもとに博士論文を執筆する。
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