2022 Fiscal Year Annual Research Report
ハイブリッドリポソームを用いた造腫瘍性細胞の排除に関する研究
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22J15566
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
陳野 莉子 崇城大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 再生医療 / 造腫瘍性細胞 / 選択的排除 / 安全性 / ハイブリッドリポソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
再生医療では、移植細胞中に混在した未分化細胞や悪性形質転換細胞等の造腫瘍性細胞により、腫瘍形成のリスクが生じる。本研究では、本学で開発されたハイブリッドリポソーム(HL)が造腫瘍性細胞の細胞膜流動性を認識する物理学的特性を利用し、同細胞の選択的排除を目指す。 本年度は、HLによる未分化細胞の排除を評価するため、分化度の低いiPS由来肝芽細胞と未分化iPS細胞の排除を検討した。 分化度の低い細胞の選択的排除評価には、iPS細胞由来肝芽細胞とiPS細胞由来肝細胞を使用し、2細胞間の分化度の違いを定量的PCRアッセイ等により確認した。細胞増殖抑制に対するHLの作用濃度の検討では、分化度の低い細胞の方がHLのIC50値が低く、HLに対する高い感受性が示された。 未分化iPS細胞の選択的排除評価には、iPS細胞を使用した。蛍光偏光解消法によるiPS細胞の膜流動性は、iPS由来肝芽細胞およびiPS由来肝細胞より大きい傾向が示され 、未分化iPS細胞に対するHLの高い作用効果が期待された。しかし、HLの細胞増殖抑制試験や融合蓄積評価ではiPS細胞に対するHLの作用効果や蓄積性が認められなかった。 本年度の検討で分化度の低い細胞と未分化iPS細胞に対してHLの作用効果が異なることが判明し、これは培養期間の違いやiPS細胞のロット間差に影響を受けている可能性があると推測される。また、未分化iPS細胞に対するHLの低い作用効果は、把握できていないHLの作用メカニズムが関係していると考えられる。 一方で、次年度に計画していたiPS細胞由来肝細胞とがん細胞の共培養による悪性形質転換細胞の選択的排除に関して、予備試験を行った。予備試験では、正常ヒト胎児肝細胞と肝がん細胞が混在した状況におけるHLの悪性形質転換細胞の排除を検討した。その結果、期待していた結果が得られ、論文投稿の準備に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、HLによる造腫瘍性細胞の選択的排除を、未分化細胞の排除と悪性形質転換細胞の排除の2点から評価すること計画している。本年度は、計画書通り、未分化細胞の排除に関する検討を行った。未分化細胞の排除に関する検討では、使用した分化度の低い細胞と未分化iPS細胞に対してHLの作用効果が異なることが判明し、これは培養期間の違いやiPS細胞の樹立方法の違いなどによるロット間差に影響を受けている可能性があると推測された。また、未分化iPS細胞に対してHLの作用効果が低いことは、把握できていないHLの作用メカニズムが関係していると考えられた。今年度得られた知見を元に、HLの作用メカニズムの解明を行うことで、HLが応用可能な条件を判断し、HLの未分化細胞の排除について見直したいと考える。 一方で、当初の計画では、次年度に悪性形質転換細胞の排除に関する検討を実施する予定であったが、本年度に、iPS細胞由来肝細胞とがん細胞の共培養による悪性度の高い肝がん細胞の選択的排除に関する予備試験を行った。予備試験では、正常ヒト胎児肝細胞(Hc細胞)と肝がん細胞(HuH-7細胞)が混在した状況におけるHLの選択的造腫瘍性細胞の排除を検討した。その結果、期待していた結果が得られたため、次年度は、実際にiPS細胞由来肝細胞を使用した実験に移行したいと考える。なお、iPS細胞由来肝細胞とがん細胞の共培養による悪性度の高い肝がん細胞の選択的排除に関する予備試験で得られた結果に関しては、論文投稿の準備に着手した。 したがって、本年度見出された課題は来年度に検討が可能であり、本年度実施予定の実験は予定通り遂行されたため、「おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
造腫瘍性細胞の中でも悪性形質転換細胞に着目し、HLによる悪性形質転換細胞の選択的排除の検討を予定通り進める。現在、前倒しで検討しているiPS細胞由来肝細胞とがん細胞の共培養による悪性度の高い肝がん細胞の選択的排除に関する予備試験について、正常ヒト胎児肝細胞(Hc細胞)と肝がん細胞(HuH-7細胞)が混在した状況におけるHLの選択的造腫瘍性細胞の排除の結果をまとめ、年度前半の投稿に向け、論文作成を進める。 次に、HLによる悪性形質転換細胞の排除に関して、実際にiPS細胞由来肝細胞を使用した実験に移行する。具体的には、iPS細胞由来肝細胞と肝がん細胞の共培養による悪性度の高い肝がん細胞の選択的排除に関する検討を行う。まず初めに、iPS由来肝細胞と肝がん細胞を共培養するための培地を検討し、それぞれの細胞に対するHLの作用効果を評価する。その後、共培養状態において、HLによる肝がん細胞の選択的排除を測定し、HL処理後に残存した細胞について評価する。また、アルブミン産生や薬物代謝酵素活性の解析により、HL処理後に残存した細胞に対する細胞機能評価を行い、正常な肝機能保持の確認を行う。得られた結果を基にして、HLによる悪性形質転換細胞の排除を評価する。 一方で、「4.現在までの進捗状況」に記載したHLの作用メカニズムに関する検討も進める。HLの作用メカニズムについては、細胞膜流動性の物理化学的特性、または、細胞膜流動性をコントロールしている物質等がHLの選択性に関与していると考えており、その点について検討を進める予定である。
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Research Products
(1 results)