2022 Fiscal Year Annual Research Report
白色矮星に降着する惑星残骸物質から解き明かす中質量星周りの惑星系形成
Project/Area Number |
22J00632
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
奥谷 彩香 国立天文台, 科学研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 惑星組成 / 白色矮星の重元素 / 降着円盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
中心星の違いが惑星形成過程に与える影響を解明することは重要である。しかし、主系列期の観測の困難さにより、太陽より重い星周りにおける惑星系の姿は未だ明らかではない。本研究では太陽より重い星が起源である白色矮星の約半数が固体惑星や小惑星の残骸を降着しているという観測(星大気の重元素とその周囲のダスト)に注目し、観測から小惑星の内部組成を制約し、それをもとに中質量星周りの惑星系形成過程を復元する方法論を開拓する。 本年度は、小惑星より供給された岩石ダスト・氷ダスト(水蒸気)がつくる降着円盤の進化を計算し、観測された降着率および岩石元素に富んだ星大気組成を再現できるのはどのような円盤か調べた。その結果、岩石ダストだけでなく氷(水蒸気)も含む円盤においてのみ、水蒸気からのガス抵抗が効率的に岩石ダストの降着を促進することで、観測された高い降着率が再現されることを明らかにした。特に、初期氷/岩石比が約0.1より小さいときに、岩石元素に富んだ星大気組成と高い降着率が同時に再現されることがわかった。これは、降着率が高い白色矮星系における重元素の起源が、C型小惑星のような少量の水を含む天体である可能性を示唆する。以上の成果をMonthly Notices of the Royal Astronomical Society誌に発表した。 続いて、ダスト円盤の熱放射スペクトルの理論計算に着手した。ダストの組成は元素レベルに分解される前の惑星の鉱物組成に等しいため、ダストからの放射は小型惑星組成に対して新たな制約を与えることが期待される。本年度は、簡便な放射モデルを用いて特定の系の観測スペクトルを再現できるようになったため、今後は熱放射スペクトルの鉱物組成依存性を詳細に調べ、その観測可能性を定量的に明らかにする予定である。以上二つの研究内容について、複数の海外研究機関を訪問してセミナー発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り、白色矮星大気の重元素観測を解釈する上で要となる降着円盤モデルを構築し、観測を再現しうる小惑星の岩石・氷比について制約を与えることができた。一方、本モデルで考えた物理過程のみで観測された星大気中の水素量を完全に再現することは困難であり、星への水蒸気の降着率をさらに一桁ほど低下させる必要性が明らかになった。そこで、降着を妨げるメカニズムとして白色矮星からのUV放射によるガスの散逸可能性に着目し、本年度の後半より散逸率の見積もりおよび光化学反応に基づいたガス円盤の温度計算を実施中である。この計算は、次年度に計画していたガス円盤の放射スペクトル予測にも共通する計算パートのため、本年度の成果を活用して研究を進めることが可能である。また、ダスト円盤の熱放射スペクトルの理論計算に関しても系は限定されているがテスト計算は完了しており、今後の研究方針は明確化できている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の後半に取り組んできたガス散逸の検討について、中心星温度やガスの化学組成をパラメータとして各元素の散逸率を計算し観測と比較することで、ガス散逸が有効なプロセスか否かの検証を行う。さらに、開発した光化学反応計算コードに輻射輸送計算を組み込むことでガスの理論輝線スペクトルを作成し、将来の紫外宇宙望遠鏡などを用いたガス円盤の観測可能性を明らかにする。 また、ダスト円盤の熱放射スペクトルの理論計算に関しても、本年度に開発した放射計算コードを用いてスペクトルの鉱物組成依存性を詳細に調べ、現在稼働中の赤外望遠鏡JWSTなどを想定した観測から惑星組成がどの程度制約可能か定量的に明らかにする。以上の研究は、白色矮星分野の観測家の協力も受けながら進める予定である。該当の観測家らとは本年度実施した海外研究機関(主にイギリス)訪問時に、既に初期構想を打ち合わせ済みであり、議論の態勢は整っている。
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