2022 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of responsible genetic basis for male and female coevolution of exaggerated genitalia
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22J01073
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
野村 翔太 基礎生物学研究所, 進化発生研究部門, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | オサムシ / 交尾器 / 種分化 / 性選択 / 進化生態学 / RNAi / 巨大 / 組織切片 |
Outline of Annual Research Achievements |
種分化をもたらす形質がどのような過程を経て進化したのかを解明することは、進化生態学上重要な課題である。本研究ではオオオサムシ亜属のドウキョウオサムシにおいて、接合前生殖隔離をもたらす雌雄の巨大交尾器に着目する。研究代表者のこれまでの研究では、巨大交尾器をもつドウキョウオサムシと近縁種について、交尾器の形成過程において遺伝子の発現量を比較することで、雌雄の交尾器巨大化に関わる遺伝子群の発現パターンを特定した。その結果、雌雄で類似した遺伝子発現の変化が雌雄交尾器の巨大化に関わった可能性があるという仮説が立てられた。 本研究ではこの仮説をテストするために、種間で遺伝子発現が変化していた遺伝子についてRNAi法を用いたノックダウンを行い、遺伝子の雌雄交尾器での影響を確認した。遺伝子発現の解析から絞り込まれた13遺伝子についてノックダウン実験を行ったところ、巨大な交尾器を持つドウキョウオサムシにおいて、雌雄両方の交尾器サイズが顕著に減少する遺伝子が確認できた。この結果から雌雄で同じ遺伝子が雌雄両方の交尾器の巨大化に関わることが明らかになった。今後はノックダウンの影響で発現量が変化した遺伝子群を雌雄で比較することで、巨大化に関わる遺伝子は雌雄でどの程度同じなのか、どのような遺伝子群が雌雄で同じ発現調節を受けることで雌雄の交尾器巨大化に関わるのかを明らかにする。 また、巨大交尾器の形成過程を仔細に観察するために、交尾器組織の切片作成方法の確立にも着手し、方法を確立させた。この方法を利用することで、遺伝子のノックダウンがどのように雌雄交尾器の形成過程を変化させたのかを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究代表者のこれまでの研究を踏まえ、雌雄交尾器の巨大化に関わる可能性のある13遺伝子について、ドウキョウオサムシでLarval RNAi法を用いてノックダウンを行うことで、交尾器サイズへの影響を検証した。その結果、オスの交尾器サイズのみを減少させる遺伝子を1つ、メスの交尾器サイズのみを減少させる遺伝子を1つ、雌雄両方の交尾器サイズを減少させる遺伝子を1つ発見した。また、本来の計画から発展させて、近縁種の交尾器が巨大ではないマヤサンオサムシでも同様の実験を行った。ドウキョウオサムシで雌雄両方の交尾器サイズを減少させた遺伝子は、マヤサンオサムシでも雌雄両方の交尾器サイズを減少させたものの、その効果は交尾器が巨大なドウキョウオサムシよりも著しく小さいことが明らかになった。次年度はこの遺伝子について、ノックダウンの影響を遺伝子発現の側面から、雌雄間・種間で比較することで、雌雄での交尾器巨大化の仕組みについて迫る予定である。 また、巨大交尾器の形成過程を観察するために、交尾器組織の切片組織標本の作製にも着手した。蛹化後5日目のサンプルに対し、パラフィン包埋を用いてHE染色を行うことで、雌雄交尾器の形成過程が観察できることを明らかにした。次年度はより若いステージのサンプル、および遺伝子ノックダウンを行ったサンプルを得ることで、ノックダウンがどのように雌雄交尾器の形成過程を変化させたのかを明らかにする。 当初の予定では交尾器の巨大なドウキョウオサムシのみ調査を行う予定であったが、本年度の研究では近縁種のマヤサンオサムシにまで手を広げることができた。したがって、研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果により、雌雄で同じ遺伝子が交尾器の巨大化に関わることが明らかになった。しかし、ノックダウン実験による交尾器サイズの減少は雌雄で同じ遺伝子発現の変化をもたらした結果引き起こされたのか、もしくは雌雄で別個の遺伝子発現の変化が結果的に類似した交尾器サイズの減少をもたらしたのか不明である。また、交尾器の巨大化をもたらす遺伝的変異が直接関与する遺伝子も特定できていない。次年度ではノックダウン実験、対照実験を行ったサンプルについて、RNA-seqを用いて全遺伝子の発現量解析を行い、遺伝子発現におけるノックダウンの影響を雌雄間・近縁種間で比較することでこれらの特定を目指す。 また、交尾器の形成がおこる蛹化後1~5日目の交尾器組織について、ノックダウン実験、対照実験を行ったサンプルの切片標本作成を行い観察することで、ノックダウンがどのように雌雄交尾器の形成過程を変化させたのかを明らかにする。
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