2022 Fiscal Year Annual Research Report
18-19世紀漢語・欧米諸語資料とスールー海域の現地語資料の比較
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21J01687
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
三王 昌代 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | アラビア文字で表記された現地語 / 海域アジア / 言語接触 / 中国 / 漢語/音訳漢字 / スールー王国 / タウスグ語 / 『華夷譯語』 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国で作成された対訳語彙集『華夷譯語』のうち,18世紀,会同四訳館において編纂され,故宮博物院や禮部が蔵していたと考えられるスールー王国のものについて検討した。本資料は漢語,外国語(現地語をアラビア文字表記した文字),音訳漢字の3種類が記され,計407の語彙が収録されている。従来の研究では扱われていないものの,東南アジア島嶼部東部の言語事情はどのようであったのか,中国がスールー王国の言語をどのように捉えていたのかなどを知るうえで貴重な資料である。 今年度は,『譯語』のなかの現地語をローマ字転写するにあたり,複数の転写候補を挙げた。現代タウスグ語,マレー語,その他の言語,そして(英語で著わされた辞書・文法書に載っているもののみ)20世紀初頭までのスールーの単語のローマ字転写やアラビア文字表記のマレー語なども示すとともに,アラビア語からの借用語はもとのアラビア語表記とローマ字転写を記して一覧表に纏めた。音訳漢字については中世・現代の中国語音を参考にして示した。本資料のアラビア文字表記は正書法よりも現地語音が優位で,しばしばアラビア文字の独立形が用いられていることのほか,音訳漢字の「抹」はタウスグ語の接頭辞ma-に充てられる事例が多く見られること,そして小字で書かれた「姆」「施」「西」「伊」「昔」「兒」「瓦」「八」「哈」といった音訳漢字とアラビア文字表記の対応関係を明らかにした。 研究を進めるにあたっては,国内外の図書館から諸言語の辞書や文法書などを取り寄せた。また,さまざまな資料からスールー王国と中国,ヨーロッパをつないだ言語事情を考察するよう努め,研究成果の一部を日本社会科教育学会にて口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度も新型コロナウイルス感染症の広がりの影響を受けることが予想されたため,当初より関連資料の解読を中心に研究を進めた。研究対象とした『華夷譯語』のなかのアラビア文字部分のローマ字転写に目途がついており,学会でも発表したため。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,アラビア語や東南アジア島嶼部の現地語をアラビア文字表記する方法からローマ字転写方針を検討してきたが,アラビア文字のアリフやハムザの使い方などに曖昧な点もある。また,ローマ字転写できていない語彙も一部ある。 本資料のアラビア文字表記は標準的な正書法とはかなり異なる部分があるので,2つの『譯語』を叮嚀に分析するとともに,漢語の音韻を視野に入れて漢字音をより正確に把握していく。現代とそれ以前のフィリピン諸語,マレー語,アラビア語,スペイン語を参考に,アラビア文字書き分けの基準や,アラビア文字と音訳漢字,音訳漢字とローマ字転写の対応関係,音節末音を表す漢字などについて整理・探求する。これらの作業を通して,残された課題を解決するとともに,最終的に研究を纏めていきたい。
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