2022 Fiscal Year Annual Research Report
水田のメタン生成において細胞外電子伝達は重要か?二重同位体標識による直接定量
Project/Area Number |
20J40189
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Research Fellow |
梶浦 雅子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2024-03-31
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Keywords | 経路別メタン排出量 / バブリング / イネ経路 / 温度依存性 / 品種間差 / 根の角度 |
Outline of Annual Research Achievements |
水田のメタンは主に、イネの通気組織を通じて、もしくは土壌からのバブリングによって排出される。初年度にこれら経路別メタン排出量を定量する方法を開発しており、これまでに、日中のメタン排出量の経時変化は主に気温への応答性の高いバブリングに起因していること、生育後期にメタン排出量が増える要因の一つはバブリングが増えるためであること、品種によって経路別排出量が大きく異なることなどを明らかにしてきた。これらの知見をふまえ、本年度も解析を進めたところ、以下の成果を得た。(1)バブリングによる排出量と気温との関係は、気温上昇中の午前と気温変化が緩やかになり下降に転ずる昼以降で異なり、単純な1対1対応の関係にはなかった。このような関係性は、土壌中のガスの体積変化によって説明可能であり、これが日中のメタン排出量の経時変化の主な規定プロセスであることが示唆された。(2)生育後期、多品種間で比較すると、土壌水中に溶けているメタンの量が多いほどバブリングによる排出量は増えるものの、イネ経路の排出量は増えなかった。このことから、イネ経路で排出しきれなかったメタンが土壌中に溜まり、これがバブリングとして排出されると考えられた。(3)日本の主要品種であるコシヒカリはバブリングによる排出量が多いという特徴があった。(4)根の角度によってメタン排出量が異なる可能性が示唆された。成果1,2は、バブリングによる排出メカニズムの解明に貢献するものであり、成果3、4は、水田からのメタン排出低減に有用な知見を与えるものであり、意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も、水田からのメタン排出プロセスの解明にむけた多くの成果を得ることができた。一方、予定していた同位体を用いた微生物実験は、同位体測定装置(所属研究機関の共同備品)の納品がCOVID-19の影響で本年度に繰り越された影響などで行えなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
同位体測定装置のセットアップを行い、これまで行えなかった微生物実験を進める。具体的には、(1)土壌試料のサンプリングおよび調整:鉄酸化物の量や質が異なる可能性のある水田土壌をサンプリング、もしくは異なる鉄酸化物の添加や除去によりDIET定量実験に適する試料を準備する。(2)土壌試料の基礎理化学分析:全有機態炭素量、全窒素量、易分解性有機物量、可給態窒素量、マンガン酸化物量、硫黄含量、土壌有機物の化学性(13C-NMR)、pH、電気伝導度を測定する。(3)DIET 定量実験:同位体標識した基質を用いて培養実験を行う。その際、エタノール、酢酸、メタン、CO2 生成量をモニタリングし、酢酸蓄積、メタン生成などの各フェーズが捉えられるよう高頻度のサンプリングを試みる。このとき、今後想定される土壌微生物に関する遺伝子解析に備えて土壌試料を採取、保存する。 一方、本年度も新たにさまざまなイネ品種、置換系統を用いた圃場試験を行っているので、これについても経路別メタン排出量の解析を進める。
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