2022 Fiscal Year Annual Research Report
ヒッグスポテンシャルの対称性構造と宇宙の物質・反物質非対称性
Project/Area Number |
22J01147
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
愛甲 将司 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | ヒッグス / 高次摂動効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ヒッグスセクターの拡張を伴う電弱バリオン数生成のシナリオの構築、および将来実験による検証性を明らかにすることである。前年度は拡張ヒッグス模型にしばしば導入されるCP奇の新しいスカラー粒子について研究を行った。ヒッグス二重項を二つ含む拡張ヒッグス模型において、CP奇のスカラー粒子の崩壊現象を高次摂動効果を含めて解析を行った。近年の実験データと整合するようなシナリオでは、高次摂動効果によって崩壊幅の予言値に数十パーセントの補正が生じることを示した。加えて、CP奇のスカラー粒子が125GeVのヒッグス粒子とZボソンに崩壊する過程の崩壊分岐比と、125GeVのヒッグス粒子とZボソンの結合における標準理論からのずれとの相関を高次補正を含めて解析し、摂動の最低次での予言から大きく変化することを明らかにした。また、擬アクシオン粒子と呼ばれるCP奇のスカラー粒子の一種が導入される模型について、電弱精密測定との整合性を研究した。先行研究ではZボソンが擬アクシオン粒子と光子に崩壊する過程の寄与や、一部の高次補正効果が考慮されていなかったことを示し、それら寄与を含めると解析結果が大きく変わることを明らかにした。既存の実験データによって擬アクシオン模型の変数にどのような制限が付くのか議論するとともに、近年CDF実験が報告したWボソンの質量におけるアノマリーを説明できる変数領域を解析した。その結果、擬アクシオン粒子の寄与によってCDF実験の結果を説明するためには、擬アクシオン粒子の質量が500 GeV以上と比較的重くなければならないことを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電弱バリオン数生成のシナリオでは、熱平衡からの逸脱を実現するために電弱相転移が一次でなければならない。標準理論では電弱相転移は一次でないため、ヒッグスセクターの拡張が必要となる。ヒッグスセクターを拡張すると、新しいヒッグス粒子が導入されるため、これらの新粒子を実験的に探索することで、電弱バリオン数生成のシナリオを検証することができる。前年度は、拡張ヒッグス模型にしばしば現れるCP奇のスカラー粒子について、現在および将来実験による直接探索と間接的検証という観点から研究を行った。特に、ヒッグス二重項を二つ含む拡張ヒッグス模型において、その崩壊過程における高次摂動効果の重要性を明らかにした。この研究によって、CP奇のヒッグス粒子の直接探索による拡張ヒッグス模型の検証可能性を高次摂動効果を含めて議論することが可能となった。加えて、CP奇のスカラー粒子の一種である擬アクシオン粒子が導入される模型の電弱精密測定による検証を研究し、従来の研究で見落とされていた効果を指摘した。擬アクシオン粒子を導入した模型での電弱バリオン数生成が議論されており、そのようなシナリオの検証性の議論に今回の解析を応用することで、擬アクシオン模型に対する制限を議論することが可能となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に行った拡張ヒッグス模型における高次摂動効果などの研究に基づいて、電弱一次相転移が実現する変数領域が既存の実験でどこまで制限されているか、また将来実験によってどこまで検証できるかを明らかにする。
|