2022 Fiscal Year Annual Research Report
溶媒和についての新しい解析理論の開発と溶媒和機能の分子論的理解
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22J00328
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
矢木 智章 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別研究員(PD) (90968281)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 溶媒和理論 / 密度汎関数理論 / 積分方程式理論 / Ornstein-Zernike方程式 / グランドポテンシャル汎関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は次の二つの課題に取り組んだ。 1.極性溶媒についてのグランドポテンシャル汎関数の構成方法の開発 グランドポテンシャル汎関数を均一な密度の周りで展開し、Molecular Ornstein-Zernike(MOZ)方程式の密度微分に基づいて、各展開係数を決定するための階層的な積分方程式の導出を行った。積分方程式の解として得られる係数より、グランドポテンシャル汎関数を構成する計算方法を開発した。本手法を水モデルに適用し、その妥当性について検討した。従来の2次展開では気液平衡の記述が不能であったが、本手法により 4 次展開したことグランドポテンシャル汎関数は水の気液相平衡状態の記述が可能であることを示した。またこれに伴って溶媒和自由エネルギーの計算精度にも大きな改善が得られた。 2.1分子FRETの光子データの解析による溶液中の生体分子の構造変化の統計的推定とモデル化 本研究では色素間の距離の時系列変化を記述するLangevin方程式とマスター方程式、FRET過程を記述するMarkov状態モデルを組み合わせて、1分子FRETを確率過程としてモデル化した。この確率過程モデルに対して逐次モンテカルロ法を適用して、光子データから蛍光色素間の距離の時系列変化を推定すると同時に、モデルに含まれる未知パラメータを決定する方法を開発した。本手法を計算機プログラムとして実装し、シミュレーションを用いて疑似的な光子データを生成し、その妥当性を確認した。またウェブ上に公開されている一分子FRETの実験データに適用し、その実用性についても検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グランドポテンシャル汎関数の開発において、汎関数構成のための数値計算手法を確立し、従来法からの大きな改善を得た。本課題は計画通り進行していると言える。また生体分子周りの溶媒和の解析に1分子計測データを活用する新たな着想を得たため、当初の計画を若干変更し、1分子FRETデータの解析方法の開発を開始した。既に解析方法の妥当性を確認しており、順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度で、グランドポテンシャル汎関数による溶媒和熱力学量の計算方法の枠組みはおおむね完成した。今後は、当初の計画を若干変更し、1分子FRETデータや蛍光イメージングデータの解析方法の開発を推進し、溶液内における生体分子の動態と溶媒和の関係について明らかにする。
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