2022 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノム比較で解明するミドリイシ属サンゴの産卵時期決定の遺伝的基盤
Project/Area Number |
22J40115
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
仮屋園 志帆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | サンゴ / ゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は琉球列島で優占するコユビミドリイシと、この種に遺伝的に近縁で産卵時期の異なるAcropora sp.1のゲノム比較により、(1)産卵時期の違いに関わる遺伝子を特定し、(2)遺伝子発現解析、(3)空間的な発現解析により候補遺伝子の関与を示すことで、ミドリイシ属の産卵時期を決める遺伝的な基盤を解明することを目的としている。 2022年度は、研究対象の2種のゲノムリシークエンスデータを用いた、集団ゲノム解析を実施した。また遺伝子発現解析のための定期的なサンプリングを実施した。しかし新型コロナウイルス感染症による移動制限や水槽でのサンゴの維持の問題から、計画通りのサンプリングは達成できなかった。このような状況ではあったが、公共データベースのデータを活用し次のような実績をあげることができた。 (1)産卵時期の違いに関わる遺伝子の特定については、ゲノムリシークエンスデータを用いて、研究対象の2種間で異なる(分化した)ゲノム領域を特定した。次いでこれらのゲノム領域に存在する遺伝子を特定し、それら遺伝子の機能を遺伝子の相同性から予想した。 (2)遺伝子発現解析による候補遺伝子の関与の検証については、遺伝子発現解析のための定期的なサンプリングを実施しが、前述した理由から計画通りのサンプリングは達成できなかった。そこで、公共のデータベースに登録されているミドリイシ属由来の全発現遺伝子データを取得し、サンゴの各生活史での遺伝子発現を解析した。これにより、集団ゲノム解析により特定した遺伝子の発現の特徴を調べることができた。 これらの研究成果として、学会発表(1件)とシンポジウムでの発表(1件)を実施することができた。また、これらの研究成果(の一部)を論文としてまとめ国際誌への投稿準備を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、次の3つの研究課題を設定している。[課題1]集団ゲノム比較による候補遺伝子の特定、[課題2]候補遺伝子の時間的な遺伝子発現解析、[課題3]産卵関連遺伝子の空間的な発現解析。これら3つの研究課題の進捗状況を次に説明する。 [課題1]集団ゲノム比較による候補遺伝子の特定では、2種の違いをつくる遺伝子を探すことを目的としている。コユビミドリイシとAcropora sp.1のゲノムリシークエンスデータを用いて、集団ゲノム比較を実施した。これにより2種の違いに関わる候補遺伝子を特定し、遺伝子配列の相同性から予測される遺伝子の機能(アノテーション)を調べた。これら候補遺伝子について今後、課題2、3で詳細に研究する予定である。 [課題2]候補遺伝子の時間的な遺伝子発現解析では、課題1で特定した候補遺伝子のうち、産卵と遺伝子発現の関連がある遺伝子を探すことを目的としている。発現解析のために、Acropora sp.1の産卵時期を含む年間を通した定期的なサンプリングを実施した。しかし新型コロナウイルス感染症による移動制限と水槽飼育していた個体が産卵しなかったため、計画通りのサンプリングは達成できなかった。そこで、公共のデータベースに登録されているミドリイシ属由来の全発現遺伝子データを取得し、サンゴの各生活史での遺伝子発現を解析した。これにより、集団ゲノム解析により特定した遺伝子の発現の特徴を明らかにした。 [課題3]産卵関連遺伝子の空間的な発現解析では、課題1および2で絞り込んだ候補遺伝子がサンゴのどこの組織で発現しているのかを明らかにすることを目的としている。この研究課題については2023年度と2024年度に実施する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度、2024年度では、[現在までの進捗状況]で説明した、[課題2]候補遺伝子の時間的な遺伝子発現解析、[課題3]産卵関連遺伝子の空間的な発現解析を実施する。推進方策の詳細を次に説明する。 [課題2]候補遺伝子の時間的な遺伝子発現解析: 2022年度に計画通りに実施できなかったサンプリングを2023年度に実施し、2024年度に解析を行う予定である。2023年度のサンプリングには、2022年度に産卵を確認した個体を用いることで、サンプリングを実施する個体の産卵成功の可能性が高いと考えている。 [課題3]産卵関連遺伝子の空間的な発現解析: 2022年度に特定した候補遺伝子のうち、その遺伝子の機能から産卵への関与が示唆される遺伝子について、空間的な発現解析を実施する。研究計画時は、遺伝子の発現場所を検出するin situ ハイブリダイゼーションという方法を予定していたが、対象とする遺伝子の性質から他の方法も検討する予定である。
|