2022 Fiscal Year Annual Research Report
冷たい沈み込み帯の炭素循環:かんらん岩捕獲岩の包有物から探る沈み込んだ炭素の行方
Project/Area Number |
22J00081
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
萩原 雄貴 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ラマン分光法 / 流体包有物 / 第一原理計算 / 鉱物包有物 / 状態方程式 / 地質圧力計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はかんらん岩が経験したPT条件を制約するためにelastic geothermobarometryの改良開発を主に行った.本年度の前半は,MgAl2O4-spinelをホスト若しくは包有物として含むホスト-包有物系においてelastic geothermobarometryを適用可能にするため,標準状態から高温高圧まで有効なMgAl2O4-spinelの状態方程式を制約した.そして,かんらん石,単斜輝石,直方輝石,MgAl2O4-spinel中のCO2流体包有物へelastic geothermobarometry理論を適用し,弾性変形が最終的な流体包有物の密度へ与える影響の補正手順を確立した. 本年度の後半は研究計画通り,かんらん石中のMgAl2O4-spinel包有物を利用したelastic geothermobarometryのマントル捕獲岩への適用可能性を検証するため,パヴィア大学,トリノ大学,パウルシェラー研究所に合計3カ月間滞在し,シンクロトロンXRDとラマン分光法を用いたかんらん石中のスピネル包有物の残留圧力の測定や,密度汎関数法を利用したMgAl2O4-spinelのラマンスペクトルのピーク位置の圧力依存性の計算を行った.その結果,マントル捕獲岩中のかんらん石中のMgAl2O4-spinelの残留圧力は地表付近の圧力条件で再平衡していることが示唆され,かんらん石中のMgAl2O4-spinelの残留圧力は地質圧力計というより地表付近でのマグマ温度の指標として有効であることが明らかになった. また,3年目に行う予定であったマントル捕獲岩中の流体包有物の窒素同位体比の測定を本年度に完了できた.得られたδ15NやN2/40Ar値は沈み込んだ堆積物の寄与を示唆するものであった.今後,希ガスや炭素の同位体比や元素比を利用して,流体の起源に更なる制約を与える予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度の進捗状況は以下の通りである. ・MgAl2O4-spinelの状態方程式を制約し,olivine中のMgAl2O4-spinelを利用したelastic geothermobarometryを天然試料へ適用可能になった.この研究内容はContributions to Mineralogy and Petrology誌で出版された.・ホスト鉱物ー流体包有物間の弾性相互作用に伴う流体密度の変化量を正確に計算することが可能になった.この研究内容は既に投稿し,現在修正中である.・3年目に行う予定であった窒素同位体比の測定を既に完了した.・ラマン分光分析装置を利用してマントル捕獲岩中の流体包有物の化学組成や密度を測定する予定であったが,新しい検出器を導入することとなったため,検出器の性能評価や分析条件の最適化を行う必要性が生じた.様々な条件下で分析を行った結果,読み出し速度,垂直ビニング幅やその位置,読み出しモードがノイズを低減させるための重要なパラメータであることが明らかになった.それらを最適化した結果,以前の分析条件と同程度の精度で流体包有物の化学組成や密度を測定することが可能になった.2022年度に行う予定であった流体包有物の記載はこの装置を用いて次年度に行う予定である.この研究内容の一部は既に投稿し,現在査読中である.・EPMAやLA-ICPMSによる試料の岩石学的記載は予定よりも遅れており,次年度に行う予定である. 以上から,今年度は分析作業の前後があったが,ラマン分光分析以外の作業は概ね計画通りに進んでいる.しかし,ラマン分光分析装置への新しい検出器の導入によりラマン分光法を利用した分析が予定通り進められなかったため,研究計画と比較して分析作業がやや遅れていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究計画には大きな変更は無い.従って,2023年度はEPMAやLA-ICPMSによる試料の岩石学的記載と,ラマン分光法による流体包有物の記載,マイクロX線CTによる試料の微細構造の調査を行う予定である.
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