2022 Fiscal Year Annual Research Report
Molecular ecology of reproductive isolation in fungi from the perspective of reproductive interference by endofungal bacteria
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20J00505
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高島 勇介 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2024-03-31
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Keywords | 細胞内共生 / Mortierella / 有性生殖 / 集団遺伝学 / 菌類ゲノム / バクテリアゲノム / β-カロテン |
Outline of Annual Research Achievements |
国内寒冷地からリターの収集を行い,前年度分と合わせて計222試料を分離に供した.麩の粉末を釣菌のベイトとした湿室分離法を15℃で行うことにより,Mortierella sugadairanaおよび姉妹種に類する形態を持つ菌類を73試料より計153菌株分離し,また,153菌株中107菌株がM. sugadairanaおよび姉妹種に含まれることを分子系統解析により確認した.そして,細菌特異的なPCRにより,107菌株のうち12菌株からPCR増幅を確認し,前年度ゲノム解析を行った細菌(以下,YTM39s3EB)に近縁であることを示した.これら12菌株のうち,採集地点が重複しない8菌株およびYTM39s3EBに近縁な内生細菌が共生するM. parvispora E2010s1の計9菌株のゲノムシーケンスを行った.宿主由来リードの選別後,内生細菌のゲノムアセンブリを行い,3-126コンティグの9つの内生細菌ゲノムを構築した.遺伝子アノテーションにより,E2010s1の内生細菌以外の8つの内生細菌ゲノムにはYTM39s3EBと同様にカロテン合成関連遺伝子が確認された.YTM39s3EBのカロテン合成関連遺伝子のうち,carotene desaturase(CrtI)の分子系統解析を行った結果,YTM39s3EBおよびシルバーリーフコナジラミの細胞内共生細菌‘Candidatus Portiera aleyrodidarum’のCrtIは同一のクレードに位置していた. 以上,寒冷地より得られた8菌株のMortierella属菌にカロテン合成関連遺伝子を持つ細菌が内生していることを示した.また,YTM39s3EBおよび昆虫の細胞内共生細菌のCrtI遺伝子が近縁であり,昆虫と菌類という系統的に異なる真核生物の共生細菌において類似した遺伝子を獲得する進化が起きた可能性を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度,日本各地から分離源となるリターの採集およびそれらを用いた研究対象菌株の収集を進めた結果,41地点より計107の研究対象菌株を分離した.また,107菌株中12菌株より,前年度にゲノム解析を行ったYTM39s3EBと近縁な細菌を検出し,そのうち8菌株の内生細菌ゲノムにおいて,YTM39s3EBと同様にカロテン合成関連遺伝子が存在することを確認した.これにより,有性生殖阻害を示す内生細菌YTM39s3EBおよび系統的に近縁な内生細菌の併せて9つの細菌ゲノムが,宿主の生殖フェロモン前駆体であるカロテンの合成に関わる遺伝子を保有するという共通点を見出した.この結果は,内生細菌の保有の有無に関連する宿主菌側の遺伝子変異を検出する上で,宿主菌類のカロテン合成関連遺伝子が比較検証すべき遺伝子であることを示唆していた. 一方,菌株収集およびゲノム解析を重点的に進めた結果,昨年度予定していたSSR遺伝子座を用いた集団遺伝構造解析を実施できなかった.しかし,ゲノム解析により,M. sugadairanaおよび近縁種は形態的に類似した種が複数存在する種複合体である可能性が確認されたため,既知の2種を対象として設計した遺伝子座マーカーの有用性が不明瞭となった.そのため,時間を有効に活用して集団遺伝構造解析を行うためには,研究対象菌株のゲノムレベルでの種多様性およびそれらの系統関係を示す必要性が明らかになった. 以上,本年度は,遅れていた研究対象菌株の収集を達成したこと,そして,カロテン合成関連遺伝子を持つ内生細菌を保有する9菌株およびカロテン合成関連遺伝子を持たない内生細菌を保有する1菌株の計10菌株の宿主菌類のゲノム解析を行うことにより,内生細菌を保有する宿主菌株のゲノムシーケンスデータを十分に取得できたことから,おおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
内生細菌が検出された9菌株から得られたシーケンスデータを2つの参照菌類ゲノム(M. sugadairana YTM39およびM. parvispora E1425)に対してマッピングを行った結果,マッピング率は28-69%であった.このうち,同じ分離地かつ同種であったE1425とE2010s1間のマッピング率は約64%であった.一方,YTM39に対して,同様に60%を超えるマッピング率が確認されたのは2株のみであった.残りの6菌株については,マッピング率が低かったことから,参照菌類ゲノムの2種とは形態が類似するが系統的に異なる種が存在する可能性が示唆された.そのため,M. sugadairanaおよび近縁種は形態的に類似した種が存在する種複合体である可能性がある.このことは特定の参照菌類ゲノムにマッピングし,変異箇所を検出することが困難であり,内生細菌の保有の有無に関連する宿主菌側の遺伝子変異の有無を検証するには宿主菌類ゲノムのアセンブリおよびそれらの比較ゲノム解析を行う必要があることを示している.具体的にはこれまでに取得した内生細菌保有株10菌株のシーケンスデータとの比較に用いる内生細菌非保有株10菌株のゲノム解析を行う.対象とする菌類が種複合体である可能性を考慮し,一部の菌株についてはロングリードも含めたゲノム解析を行うことで新たに参照菌類ゲノムの拡充を行う.前年度まで取得した分を含むすべてのシーケンスデータについて,拡充した参照菌類ゲノムも駆使した再マッピングを行うことにより,宿主菌類ゲノム由来のリードを最大限抽出する.得られたリードを用いて,宿主菌類ゲノムのアセンブリを行う.細菌保有株および非保有株のそれぞれ10菌株の計20菌株のゲノムを対象に比較ゲノム解析を行い,特に菌類側のカロテン合成関連遺伝子について内生細菌の有無に関連した変異が生じていないかを検証する.
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Research Products
(5 results)