2021 Fiscal Year Annual Research Report
Frank Norris and Turn-of-the-Century US Intellectual History: An Integrated Understanding of the Varieties of Naturalism
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21J00431
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
入江 哲朗 国際基督教大学, 教養学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | アメリカ思想史 / アメリカ哲学 / アメリカ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の筆者の研究実績に関して、はじめに挙げるべき成果は、ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン『アメリカを作った思想──五〇〇年の歴史』という訳書を2021年7月にちくま学芸文庫より上梓したことである。同書は、アメリカ思想史の全体をなるべく簡潔に概観している点でも、旧来の思想史研究が十分な光を注いでこなかった人びと──アメリカ先住民、奴隷化された黒人たち、女性たちなど──を積極的に取り上げている点でも画期的である。筆者は、この画期的なアメリカ思想史の入門書を日本語へ訳すことによって、アメリカ思想史に入門する経路が乏しかった日本の状況の改善を図った。また同書に収められている拙稿「訳者あとがき」(311-24頁)は、同書の内容の紹介のみならずアメリカ思想史研究の動向の解説もおこなっており、とりわけ“American intellectual history”という領域名を「アメリカ思想史」と訳すべき理由について論じている。 研究計画で掲げた探究対象のうち、「アメリカ自然主義文学は、世紀転換期のアメリカ哲学(なかでも当時「自然主義」と呼ばれた哲学的立場)とどう接続しているのか」という問いについては、ウォルター・ベン・マイケルズの論文「コーポレート・フィクション」などを批判的に検討することによって研究上の進展を得た。この進展に関する口頭発表を筆者は、2022年3月2日に催された「世紀転換期の英米哲学における観念論と実在論──現代哲学のバックグラウンドの探究」(科学研究費基盤研究(C)、研究代表者:染谷昌義、課題番号:20K00015)定例研究会のなかでおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン『アメリカを作った思想──五〇〇年の歴史』という訳書を2021年7月にちくま学芸文庫より上梓したことは、研究計画どおりである。この業績に加えて、『ゲンロンβ』第65号にて論文「わけのわからないテクストを読む──思想史と謙虚さ」を発表したことで、アメリカ思想史という領域のアウトリーチ活動という意味でも、アメリカ思想史研究の方法論的考察という意味でも、当初の想定以上の進捗を生み出すことができた。 他方で、「アメリカ自然主義文学は、世紀転換期のアメリカ哲学(なかでも当時「自然主義」と呼ばれた哲学的立場)とどう接続しているのか」について探究するという課題に関しては、2021年度中に論文化するところまでは進めなかった。その理由のひとつは、目的達成のためには避けられない中間課題、すなわちウォルター・ベン・マイケルズの論文「コーポレート・フィクション」の批判的検討が、当初の想定以上に重かったことにある。しかし、この中間課題に関する口頭発表を2021年度中におこなったことは予期せぬ業績であり、ゆえに全体的には、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に引きつづいて2022年度も、研究計画で掲げた課題のうち、(1)自然主義文学がアメリカ化する過程の分析と、(2)世紀転換期米国の文学および哲学に現れた自然主義の統合的理解とに注力する。後者に関して、より具体的に言えば「アメリカ自然主義文学は、世紀転換期のアメリカ哲学(なかでも当時「自然主義」と呼ばれた哲学的立場)とどう接続しているのか」という問いの検討に関しては、研究成果の口頭発表を2022年6月4-5日の第56回アメリカ学会年次大会にておこない、続いてその内容を論文化する。 また、本研究が注目するフランク・ノリスの手稿の多くはカリフォルニア大学バークリー校バンクロフト図書館に保管されているため、海外渡航制限などがなければなるべく2022年夏に渡米し、カリフォルニア州に滞在してバンクロフト図書館での史料調査をおこなう予定である。史料調査の成果は、学術誌のModern Intellectual Historyへの投稿を念頭に置きつつ論文化してゆく。それが完了し次第、研究計画で掲げた(3)1890年代米国的な自然観および肉体観の表象分析という課題に着手する。 上記の計画と並行して、筆者がこれまでおこなってきたアメリカ思想史研究のアウトリーチ活動を2022年度以降も継続する。具体的には、『英会話タイムトライアル』(NHK出版)での連載「現代に息づくアメリカ思想の伝統」を、2022年4月号から2023年3月号まで続け、連載終了後にはその内容の書籍化を目指す。こうした活動によりアメリカ思想史という領域の日本における認知度が高まれば、本研究の成果を公表する際のインパクトもより広い範囲に届くようになるだろう。
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