2022 Fiscal Year Annual Research Report
中世王朝物語における王権の総合的研究―密通における帝像の変容を起点として―
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22J12785
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
大塚 千聖 日本女子大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 中世王朝物語 / 王権 / 密通 / 帝 / 摂関家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中世王朝物語における王権の独自性を究明することを目的とし、【a】物語を動かす原動力としての帝の存在が王権を動かすうえで果たしている機能を明らかにする/【b】〈しのびね型〉作品における王権意識を探る、の二つの観点から構成されるものである。平安期の王朝物語における帝は往々にして妻を臣下に奪われる存在として描かれるが、中世王朝物語では臣下の妻を奪う帝が数多く登場するようになる。この「奪われる側から奪う側へ」という帝像の変化に着目することで、中世王朝物語における王権の独自性が明らかになることが期待される。 採用一年目となる本年度は【a】の観点から『我が身にたどる姫君』に登場する女帝を取り上げその機能を分析した。これは女帝という物語史に例を見ない特異な存在を分析することで、他作品における「女君を奪う帝」の問題を逆照射し、次年度以降の考察の布石とすることを目的とした作業である。その成果としては、天皇家の繁栄が摂関家の繁栄と密接に結びついて描かれる傾向にあることを明らかにしたことが挙げられ(「『我が身にたどる姫君』女帝論―関白家との紐帯を視座に―」口頭発表、中世文学会研究発表会)、2023年6月刊行予定の『中世文学』68号にも掲載予定である。 その他、女帝と彼女の夫である三条帝の関係性について贈答歌に着目して従来の読みに対する見直しも行ったが、発表には至らなかったため次年度以降の論文化を目指す。 また「『我が身にたどる姫君』の密通―皇后の宮系統を視座として―」という題で『古代中世文学論考』46集に掲載された論文は、2019年の物語研究会例会での口頭発表に基づいたもので、王権の問題と不可分である密通を取り上げ論じたものである。本作に登場する不義の子たちには女帝同様に摂関家の繁栄を支える役割が見出せることから、本作に「摂関家と天皇家の一体関係」という理想が一貫していることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中世王朝物語において、摂関家の子息を主人公に据えて摂関家の繁栄を描く〈摂関家物語〉の隆盛が見られることは既に指摘がある。この傾向と『我が身にたどる姫君』の女帝の存在は従来切り離されて考えられていたが、摂関家の娘を母に持つ女帝はやはり摂関家出身の人間たちを重用しており、院政期以降も天皇家が摂関家と密接に結びついていた歴史的背景とも重なる部分が大きい。他作品の帝を調査するにあたっても、天皇家と摂関家の関係性という観点は重要になることが見込まれ、次年度以降の研究を深めていくための重要な成果であったといえる。以上、次年度以降の見通しが立ったこと、学外学会での発表に加えて論文化の目処も立っていることから、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる次年度は、「王権と摂関家」という観点からの調査を継続し、以下【a】【b】の観点から考察を行う予定である。 【a】『我が身にたどる姫君』以外にも摂関家が登場する作品は多い。それらの作品の中で摂関家がどのような機能を果たしているのか分析することで、本年度の成果を相対化し、中世王朝物語という作品群全体の中で捉え直してゆく。 【b】〈しのびね型〉の代表的作品ともいえる『しのびね』を取り上げる予定である。本作は摂関家に属する人物が登場しない点において、観点【a】で扱う作品と異なる性質を持つ。この点に着目して〈しのびね型〉作品における王権の特質の究明を目指すとともに、二年間の研究成果の総括を行う。
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