2021 Fiscal Year Annual Research Report
徳認識論と認識的パターナリズムーケア倫理的観点からー
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20J00293
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
飯塚 理恵 関西大学, 総合情報学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 倫理学 / 哲学 / 認識論 / 認識的不正義 / 徳認識論 / 徳倫理 / 徳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は認識的徳と認識的悪徳の本性を明らかにすることを目標とするものである。認識的徳を獲得し悪徳を回避する際に、社会的介入が持つ重要性を考察すること、すなわち、認識的パターナリズム、ナッジの可能性の検討、次に、陰謀論的思考という特性が認識的悪徳の一種であるという可能性を検討すること、更に、近年欧米の哲学者たちが積極的に重要性を認める認識的謙遜の徳が、日本においても徳か否かを批判的に検討することである。本報告では2021年度(及び繰越の2022年度)の研究をまとめる。 2021年度は、1年目の研究成果を踏まえて、現実の社会に埋め込まれた認識者にって徳や悪徳とはどんなものかに注目する必要があると感じ、そのために、特に抑圧下にある認識的行為者の情報の消費・発信のあり方を研究するようになった。具体的には、女性中心に行われてきた美容実践の領域での情報受容の傾向性を検討した。そこで、美容実践はエンハンスメント実践(治療を超えて科学技術を用いて人の機能を向上させること)の一つであるにもかかわらず、そうした視点が抜け落ちてきたことを指摘し、批判した。こうした成果は、「エンハンスメントとしての美の実践」、「美容実践と幸福」という題の哲学論文でそれぞれ発表した。 また、権力が知識獲得に与える悪影響として、認識的不正義が知られている。特定の社会集団が、偏見のせいで適切な程度よりも不当に信頼性を低められてしまうことや、自分達にとって重要な社会的経験についての理解が妨げられることが認識的不正義とされる。報告者は、認識的不正義の研究を進め、認識的不正義についてのサーベイ論文を「哲学の探求」に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 報告者は、2021年度、社会の中で比較的権力を持たない認識的行為者の情報の消費・発信のあり方に注目し、美的エンハンスメントという領域で複数の論文を執筆した。 また、日本独自の認識的徳、悪徳の研究を進めた。英米の徳認識論者たちは、知的謙遜が善い探求に必要不可欠だと論じてきた。それに対して私は、西洋哲学の文脈で徳とされてきた認識的謙遜が日本の女性にとっては徳ではない、すなわち、目指されるべき性格ではないと主張してきた。その成果として、2022年の4月にカナダのバンクーバーで行われたAmerican Philosophical Associationという学会では、“The Virtue of Intellectual Humility in Japan” という題で発表を行った。 そうした社会に位置付けられた徳という考えを更に発展させ、2022年5月に日本哲学会第81回大会の公募ワークショップ『現代哲学として「徳」を研究する』で、「スタンドポイントと認識的徳」という題で、発表を行った。これらの発表では、社会的抑圧とそれに影響される社会集団に応じて、認識的徳や克服すべき悪徳は異なるのではないかという考えをテーマに発表を行った。 以上のように、2021年度と繰越の2022年度で、報告者は課題を進展させた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性として、以上に述べた2021(2022)年度の成果を論文の形式で発表することが目指される。 まず、前年度に引き続き、陰謀論を巡る倫理学の論文を執筆する。その際、陰謀論的思考が、道徳的な悪徳と認識的な悪徳というハイブリッドな悪徳である可能性を模索する。その際、他者に悪徳を帰属することは他者理解を妨げるという悪徳認識論に向けられた批判を回避し、悪徳帰属が有効なケースを検討する。 報告者は過去数年で美的エンハンスメント実践についての調査を国内外で行ってきた。共同研究者と共にそれらの成果報告をまとめることを目指している。その際、美的実践を巡る情報伝達実践と、後述の、認識的不正義との接続点がないか検討する。 次に、報告者は認識的謙遜の徳が、日本女性にとって認識的徳と言えないという主張を展開してきた。この考えは、Intellectual humility and Japanという題の論文として執筆し、現在査読中である。また、日本哲学会で発表した、認識的徳の社会化という問題は、スタンドポイント認識論との融合という観点から、現在論文を執筆中である。フェミニスト哲学と徳認識論を融合するという目標のもと、こうした研究を更に進める。 認識的不正義についての研究は、日本独自の認識的不正義があるか、ある場合、それはどんなものかを明らかにすることを目指している。その際、従来の認識的不正義の研究の中であまり研究されてこなかったピアプレッシャーや交差性が権力のない集団の認識活動に与える影響を考察したい。
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