2023 Fiscal Year Research-status Report
スピンを偏極させた不安定核ビームによる新奇な原子核構造の核心的理解
Project/Area Number |
22KK0041
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小田原 厚子 大阪大学, 大学院理学研究科, 准教授 (30264013)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西畑 洸希 九州大学, 理学研究院, 助教 (00782004)
畠山 温 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70345073)
平山 賀一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30391733)
飯村 俊 立教大学, 理学部, 助教 (60963014)
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Project Period (FY) |
2022-10-07 – 2026-03-31
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Keywords | 中性子過剰核 / 原子核構造 / レーザー分光法 / β-n-γ核分光法 / スピン偏極ビーム |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子過剰核で新たに発見されてきた奇妙な原子核構造を理解するためには、原子核のエネルギー準位のスピンとパリティという基本的な量子数を実験的に決定する必要がある。従来の手法でこれらを決めるには複数の実験結果が必要であったが、我々のスピン偏極核のβ崩壊時のβ線放出の非等方性を利用することで一度の実験で確定出来る。この非常に有用な手法を安定核から遠く離れた生成限界の中性子過剰核に適用するため、異分野共同、かつ、カナダのTRIUMFとの国際共同研究として進めている。 2023年度は2つの大きな実験を行った。まず、毎秒100個程度の不安定核原子の超微細構造を決定するレーザー分光法の開発のために、安定核23Naを用いたテスト実験を2023年7月に実施した。東京農工大の学生が長期滞在して、TRIUMFの研究協力者とともに実験を実施した結果、改良すべき点が明らかとなり、さらなるビームラインの開発方針を決定することができた。 2つ目として、アルカリ土類金属Mg-33の高偏極度のスピン偏極ビーム生成に成功したTRIUMF側と進めたビームラインなどの開発の結果、約15%という高偏極度を達成することができた。この高偏極度のスピン偏極Mg-33ビームを用い、この核のβ崩壊より中性子過剰なAl-33核の構造解明実験を2023年12月に実施した。中性子過剰核であるため、β崩壊後すぐに中性子を放出する確率も増加する。そこで、β線とγ線に加えて中性子も測定した。新たに開発した正6角形の中性子検出器を今回使用し、また、数十keVから約200 keVの低エネルギー中性子を検出するためにリシウムガラス・シンチレーターを新たに導入した。大阪大学、九州大学、東京農工大学の学生も実験に参加し、現在、データ解析中である。国際会議gamma24で2名の学生が本実験結果の速報としてポスター発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の大きな目標は、高純度のスピン偏極核ビームの種類を広い質量領域に拡大し、開発したスピン偏極核のβ崩壊より中性子過剰核の構造を解明することである。そのため、(1)毎秒100個程度の不安定核原子の超微細構造を決定するレーザー分光法の開発と、(2) 従来のアルカリ金属だけではなく、アルカリ土類金属やその他の原子のスピン偏極ビームの開発を推し進めている。 2022年度は東京農工大の学生がTRIUMFに長期滞在してTRIUMFの研究協力者と一緒に開発目標(1)の準備を進めた。また平行して、開発目標(2)としてアルカリ土類金属であるMg-33核の高純度スピン偏極ビーム開発とそのスピン偏極核のβ崩壊実験のために、TRIUMF側で環境磁場によるスピン偏極ビームの偏極緩和を防ぐためのコイルの準備を、日本側でβ崩壊実験の準備を行った。 2023年7月に3月に実施予定だったがTRIUMUF側の都合により延期となっていた、開発目標(1)毎秒100個程度の原子の超微細構造を決定するためのレーザー分光法開発実験を安定核Na-23ビームを用いて無事に実施することができた。 さらに、開発目標(2)としてアルカリ土類金属であるMg-33核の高純度スピン偏極ビーム開発とそのスピン偏極核のβ崩壊実験を2023年12月に実施した。約15%という高純度のスピン偏極ビームを得ることができたのは、コイル磁場の導入と、ビーム捕獲膜内のスピン偏極核の偏極緩和を防ぐために日本側で設計して製作した新たな高磁場発生用の磁石の設置、により可能となった。特に後者は両者の合成磁場による磁場反転を防ぐ必要があり、複雑な形状の高磁場発生磁石を生成できる日本の企業の高い技術力より可能となり、TRIUMFで高く評価されている。 以上より、TRIUMF側の加速器の都合により実験の予定が少し遅れはしているが、概ね順調に本研究は進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、まず、2023年度に実施した実験データのデータ解析を大阪大学と九州大学の博士前期課程の学生たちが中心となって行う。中性子検出器のデータ解析手法の開発を、韓国のKAERIのGeant4を用いた検出器シミュレーションを専門としている研究協力者とともに2024年3月から開始した。これに基づき、Al-33核の中性子束縛状態のみならず、中性子非束縛状態の原子核構造解明にもつながる予定である。一連の実験結果を学会や国際会議で発表し、理論原子核物理学の研究協力者と議論しながら、最終的には投稿論文としてまとめる予定である。 開発目標(1)である、毎秒100個程度の不安定核原子の超微細構造をレーザー分光法の開発のために、2023年度に実施したテスト実験の結果をもとに、ビームラインの改良を進め、もう1度、安定核Na-23原子ビームを用いた実験を行い、実験手法の有用性を示す予定である。その後、TRIUMFのビームタイム審議会(PAC)に中性子過剰核Na-32ビームを用いた超微細構造を決定する実験とスピン偏極ビーム開発実験を提案し、これらの実験を実施後に、最終的にNa-32スピン偏極核のβ崩壊によるMg-32核の構造解明実験を実施する予定である。 また、開発目標(2)である、従来のアルカリ金属だけではなく、アルカリ土類金属のスピン偏極ビームの開発、として、TRIUMF側ではスピン偏極Cu核のビーム開発を開始しようとしている。日本側からも高純度のスピン偏極Cu核ビームの開発プロジェクトを共同で実施し、中性子過剰核Cuのβ崩壊によるZn核の球形から変形への構造変化を明らかにする実験計画をTRIUMFのPACに提出し、実験実施を目指す予定である。
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Causes of Carryover |
2024年3月末の国際会議に立教大の共同研究者が参加した旅費であるが、事務手続きの関係で2024年4月に執行されることこになり、また、TRIUMFに2024年2月頃に次回の実験準備の議論のために共同研究者1から2名が出張予定であったが、2024年の夏以降に日程を変更することにしたことにより、次年度使用額が生じることとなった。
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[Presentation] Study of the unbound states in 33Al by β-delayed neutron decay of spin-polarized 33Mg2024
Author(s)
R. Miyahara, Y. Yamamoto, N. Itakura, A. Odahara, H. Nishibata, T. Shimoda, J. Lassen, R. Li, Nurhafiza M. Nor, R. Yasuda, A. Hatakeyama, Y. Hirayama, S. Iimura, M. M. Rajabali
Organizer
Frontier nuclear studies with gamma-ray spectrometer arrays (GAMMA24), Mar. 26-28 (2024), Osaka, Japan
Int'l Joint Research
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[Presentation] Level scheme of 33Al by β-decay spectroscopy of 33Mg2024
Author(s)
Y. Yamamoto, H. Nishibata, A. Odahara, T. Shimoda, R. Miyahara, N. Itakura, R. Yasuda, Nurhafiza M. Nor, A. Hatakeyama, Y. Hirayama, S. Iimura, Y. Ichikawa, J. Lassen, R. Li, M. M. Rajabali
Organizer
Frontier nuclear studies with gamma-ray spectrometer arrays (GAMMA24), Mar. 26-28 (2024), Osaka, Japan
Int'l Joint Research
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