2022 Fiscal Year Research-status Report
皮革産業による環境汚染に起因する健康障害を解決する疫学・基礎融合研究
Project/Area Number |
22KK0145
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 昌志 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10281073)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田崎 啓 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (80333326)
大神 信孝 藤田医科大学, 医学部, 教授 (80424919)
原 田 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80868258)
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Project Period (FY) |
2022-10-07 – 2027-03-31
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Keywords | クロム / 健康影響 / 聴力 / 皮革工場労働者 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界貿易額が10兆円を越え、世界の労働者人口が600万人を超えている皮革産業は、巨大世界産業であると言える。近年、皮革産業において、環境汚染が発生する作業工程を途上国が分担し、汚染の発生しない作業工程を先進国が分担するという不平等な構図ができあがっている。特に、バングラデシュにおいて、皮革工場に由来する深刻な環境汚染と皮革工場労働者の健康障害が報告されている。しかし、健康障害の報告から20年以上が経過しても、本地球規模環境問題は一向に解決されていない。本研究では、皮革製品を世界約70ヶ国に輸出しているバングラデシュを重大な環境汚染が発生している途上国の例とし、バングラデシュの皮革製品の主要輸入国である日本を先進国の例として、A. 環境汚染の把握→B. 汚染物質の健康影響評価→C. 解決策の提案からなる双方向的国際共同研究を推進する。
本年度は、まず、バングラデシュの皮革工場集積地における工場内廃液のクロム汚染に焦点を当て、皮革工場労働者が曝露されるクロムの99.99%以上が三価クロムであることを把握した。次に、皮革工場労働者が、会話音域(1000 Hz・4000 Hz)における難聴を発症していることを発見した。感音性難聴は、8000 Hz・12000 Hzといった高音域から難聴が始まることを考えると、本難聴は感音難聴である可能性は低いと考えられた。そこで、動物介入実験を用いて三価クロムが難聴を誘発するメカニズムを調べた。本動物実験では、三価クロムが鼓膜に損傷を与えることにより、伝音性難聴が誘発されている可能性を示した。六価クロムほど強くはないものの、三価クロムも腐食作用を持っていることを考慮すると、皮革工場労働者は工場廃液が外耳道を経由して鼓膜に達することで、鼓膜障害が発生した結果として伝音難聴が発症した可能性があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、途上国と先進国の双方向的国際共同研究により、A. 環境汚染の把握→B. 汚染物質の健康影響評価→C. 解決策の提案を推進する研究である。2022年度において、A. 環境汚染の把握に関しては、関連する1編の論文を公表した。B. 汚染物質の健康影響評価に関しては、関連する2編の論文を公表した。解決策の提案に関しては、関連する2編の論文を公表した。以上のように、2022年度には、本研究課題に関連する数編の論文を公表できているので、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度以降は、以下に示す国際共同研究を推進する。 A. 環境汚染の把握:バングラデシュにおいて、70%程度の皮革工場が残る旧皮革工場集積地域と皮革工場が移転した新しい皮革工場集積地域において皮革工場内外の環境検体を採取し、化学物質を測定するフィールドワーク研究を推進し、環境汚染の推移と現状を把握する。特に、2023年度以降は、皮革工場集積地域の環境検体における元素の酸化に着目して検討を進める。 B. 汚染物質の健康影響評価:バングラデシュの皮革工場労働者に対するアンケート調査、臨床検査、生化学検査等の無料健康診断を実施する。さらに、バングラデシュの事務労働者に対して、同様の無料健康診断を実施する(対照)。次に、ヒト検体に含まれる化学物質の濃度を測定する。最後に、上記の情報を合わせて、皮革工場に起因する化学物質の健康影響をヒトに対する横断的疫学研究で解明する。特に、2023年度以降は、皮革工場に起因する化学物質に関する健康影響を詳細に探索する。また、ヒトで得られた化学物質の健康影響に関する成果を、必要に応じて動物(マウス)や培養細胞を用いた介入研究で実験的に確認する。 C. 解決策の提案:まず、研究代表者等が発明したオリジナルの浄化材を基盤技術として用い、除去すべき単体の化学物質を含む人工的水溶液に対する浄化材の吸着効果をラングミュア吸着等温式等を用いて化学的に証明する。オリジナルの浄化材を用いた吸着がうまくいかなかった場合には、新しい浄化材の開発に挑戦する。さらに、バングラデシュにおいて採取された皮革工場内外の廃液(環境検体)を用い、本研究において開発された浄化材を用いて、実際に有害化学物質を除去できることを証明する。以上により、皮革工場に起因する環境汚染と健康障害に関する問題の解決に挑戦する。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の影響があり、国内外の旅費の必要性が低減した。また、購入予定であった物品が安価に購入できた。さらに、民間財団から本研究に一部関連する研究費を取得できたことだけでなく、学内等からの資金を本研究に使用することができた。以上の理由により、次年度使用額が生じた。次年度使用額(総額:1,967,565円)の使用計画は、物品費(試薬類・器具類・ガス類・質量分析装置関連消耗品等667,565円)、国内旅費(学会出席・研究打ち合わせ等100,000円)、外国旅費(海外フィールドワーク等200,000円)、人件費・謝金(特任教員・研究補助員の短期雇用700,000円)、その他(交通通信費・検体外注・実験動物飼育管理費等300,000円)である。
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