2013 Fiscal Year Annual Research Report
特異なクラスター活性中心をもつ酸化還元金属酵素の生物無機化学
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23000007
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
巽 和行 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 特任教授 (10155096)
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Project Period (FY) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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Keywords | クラスター / 酸化還元酵素 / ニトロゲナーゼ / ヒドロゲナーゼ / COデヒドロゲナーゼ |
Research Abstract |
本年度も研究は順調に進み、以下に示す予想以上の重要な成果が得られた。 (1)酸化型および還元型P-クラスターのモデルとなる[Fe8S7]クラスターの合成 : 従来のP-クラスター骨格合成で用いてきたチオールの代わりに、シリル置換基をを持つよりかさ高いチオールHSTbt (Tbt=2,4,6-{CH(SiMe3)2}3C6H2)を用いることにより、P-クラスター[Fe8S7]骨格の4つの鉄原子にTbtチオラート配位子と2つのEt20が配位したP-clusterモデルの合成に成功した。これまでは鉄原子にアミドが配位していたが、今回合成したモデルクラスターはニトロゲナーゼP-clusterの配位環境をほぼ再現している。興味深い事に、新モデルクラスターにおいても鉄原子の酸化数は2Fe(III)-6Fe(II)であり、提案されているニトロゲナーゼP-clusterの酸化状態よりも2電子少ない。ニトロゲナーゼP-clusterの鉄酸化状態の再考を促す重要な発見である。 (2)超高酸化状態をとる[Fe4S4]クラスターの骨格変換反応 : 生体内ではフェレドキシン[Fe4S4]クラスターが酸素と反応して[Fe2S2]クラスターへ変換すると提案されているが、合成化学的な証明はない。我々は、超高酸化型[Fe4S4]クラスターである[Fe4S4{N(SiMe3)2}4]が供与性配位子(ピリジン)の存在下で容易に[Fe2S2]クラスターに解裂することを見出した。この反応は可逆的におこり、生体内でも[Fe4S4]クラスターから[Fe2S2]クラスターが生成する可能性を初めて示すとともに、安定とされる[Fe4S4]クラスターの骨格変換に関する常識を覆した。 (3) DPORを利用した人工酵素構築 : ニトロゲナーゼに酷似したDPORのNB-タンパク質を利用し、合成した金属クラスターの導入による人工金属酵素を構築する目的で、Pchlide結合キャビティを構成する2つの残基(BchN-Phe393, BchB-Leu41)を、金属クラスターの配位に関与できるようにシステイン残基に改変した変異NB-タンパク質を調製した。X線結晶構造解析を行い、人工金属クラスターを包含できる空間と立体配置をもつことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に述べたように、今年度は当初予定していた以上の研究の進展が見られた。特に、ニトロゲナーゼP-clusterのモデル研究では下記の特筆すべき成果をあげることができた。 1)これまでP-clusterモデルとして、鉄上にアミド配位子をもつクラスターの合成には成功していたが、今回、そのアミド配位子がすべてチオラートに置換され、最もP-clusterを高精度に再現したモデルを構築に成功した。その結果、ニトロゲナーゼP-clusterの鉄原子の酸化状態に関する従来の定説を見直す必要性が示唆する成果が得られた。 2)超高酸化型[4Fe-4S]クラスターに関する独自の研究から、これまで化学的には困難であるとされていた、[4Fe-4S]骨格から[2Fe-2S]骨格への可逆な変換反応を発見し、生体内で進行する鉄硫黄クラスターの構造変化に関する重要な知見を与えた。 また、アセチルCoA合成酵素や[NiFe]ヒドロゲナーゼのモデル研究も順調に進捗している。アセチルCoA合成酵素の2核ニッケル構造のより優れた構造モデルの合成を達成するとともに、還元型[NiFe]ヒドロゲナーゼの優れたモデル錯体の合成にも成功した。さらに、生化学分野との共同研究も順調で、ニトロゲナーゼ類似のDPOR酵素の研究において、合成した金属硫黄クラスターを導入できるシステイン部位を挿入した改変DPORタンパク質の創製を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
独自に開拓した金属硫黄クラスター合成概念を駆使して、酸化還元金属酵素のクラスター活性中心に関する本研究は順調に成果をあげている。今後も、これまでの研究推進方策に基づいて以下の各研究課題を引き続き強力に推進する。 〈ニトロゲナーゼ活性中心〉 本研究グループで確立した非極性溶媒中での鉄硫黄クラスター合成の考え方を発展させ、モリブデンを含む金属硫黄クラスターの合成に取り組み、ニトロゲナーゼFeMo-coモデルの構築を前進させる。一方、P-clusterの構造モデルはほぼ達成されたので、その成果を基にP-cluster骨格の電子状態と酸化還元過程の詳細な検討を行う。さらに、生化学者との共同研究も引き続き進め、ニトロゲナーゼの特異な構造を持つクラスター活性中心がタンパク質環境下で構築される仕組みの解明をめざす。また、DPOR酵素の活性中心をニトロゲナーゼ様金属硫黄クラスターに置換する共同研究を進めて、ニトロゲナーゼ機能とDPOR機能の関連性について調べる。 〈アセチルCoA合成酵素活性中心〉 2核ニッケル活性中心モデルの合成はほぼ完了しており、今後は電子移動を担う鉄硫黄クラスター部位と連動した酸化還元挙動の仕組みを解明する研究へと展開しつつ、アセチルCoAを触媒的に生合成する酵素機能のモデル反応に関する研究を深化させる。 〈[NiFe]ヒドロゲナーゼ活性中心〉。 これまで酸化型および還元型ヒドロゲナーゼ活性中心のモデル錯体合成を成功裏に進めてきた。 今後は、各型のモデル錯体の化学特性を明らかにしつつ、ヒドロゲナーゼ酵素機能を模する反応の開拓に努め、酵素反応機構の解明に資する成果をあげたい。 〈光化学系II酸素発生中心〉 光化学系II酸素発生中心の構造モデル構築として、Caを含むMn/Ca/Oクラスターの合成研究を継続して推進する。これまで培った鉄硫黄クラスター合成のノウハウを生かし、かさ高いアルコキシド配位子を利用してマンガン酸素(ヒドロキシド)クラスターモデルの高度化を行う。特に高酸化状態のマンガンを含むクラスターの構築に焦点をあてる。
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Research Products
(32 results)