2011 Fiscal Year Annual Research Report
極低摩擦・極低摩耗生体関節に学ぶ生体規範超潤滑ハイドロゲル人工軟骨の実用化
Project/Area Number |
23000011
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
村上 輝夫 九州大学, バイオメカニクス研究センター, 特命教授 (90091347)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
澤田 廉士 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40380589)
澤江 義則 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10284530)
中嶋 和弘 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70315109)
坂井 伸朗 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60346814)
松田 秀一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40294938)
鈴木 淳史 横浜国立大学, 環境情報研究科(研究院), 教授 (90162924)
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Keywords | ハイドロゲル人工軟骨 / 生体関節多モード潤滑 / 生体規範人工関節 / 生体医工学 / トライボロジー |
Research Abstract |
人工関節における摩耗低減と摩擦低下を実現するために、生体関節の構造・機構・機能の理解を深め、その成果を反映させて高機能ハイドロゲル人工軟骨の臨床実用化技術を構築することを目指した。 【1】生体関節の多モード適応潤滑機構の解明 (1)関節軟骨の構造・物性評価と潤滑膜形成機構の解明:関節軟骨の摩擦・可視化試験により関節液成分の吸着特性と固液二相潤滑・水和潤滑の挙動を評価し、相互の関連を明確化した。(2) 関節軟骨の変形・摩擦挙動の実測と固液二相有限要素解析:顕微鏡可視化試験、固液二相有限要素解析に基づき、軟骨のモデルを提案・評価し、流体圧を実測できた。(3)マイクロ血流センサ計測システムによる軟骨部流動現象の非侵襲計測:スペックル計測による軟骨部流れ非侵襲計測装置を試作し流れ動態評価を試みた。 【2】生体規範超潤滑ハイドロゲル人工軟骨の実用化 (1)人工関節の最適設計とシミュレータによる評価:ハイドロゲル人工軟骨を有する試作人工膝関節のシミュレータ歩行模擬試験により線維強化の効果を把握し、ゲルの適用法を検討した。(2)PVAハイドロゲルの改質高機能化:a)繰返し凍結・解凍PVAの耐摩耗性・摩擦特性の最適条件の探求に取組み、潤滑剤との最適条件を見出した。b)キャストドライPVAのナノ構造・界面制御や、機能性分子の担持、積層化技術、固着技術開発に取組み、その低摩擦性を見出した。c)2種のゲルの最適組合せや、複合化・傾斜機能化の試作と評価を行った。(3)摩耗粉へのマクロファージ反応:英国リーズ大学と共同でポリエチレンの場合の評価を試みた。(4)人工軟骨家兎膝関節埋入試験を行い、X線マイクロCTで追跡観察した。また、繰越経費を使用してハイドロゲルの生物学的安全性を確認できた。 平成23年11月には、第6回国際バイオトライボロジーフォーラム(福岡市)を主催し成果発表と情報交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生体関節の潤滑機構に関しては、とくに固液二相軟骨における液相流体圧力と軟骨表面吸着膜形成の役割を明確化し、ハイドロゲル人工軟骨に関しては、ゲルの製法・構造と摩擦挙動の対応を見出し、当初の研究目的にそった成果を得ることができた。 生体関節の多モード適応潤滑機構の解明に関しては、固液二相潤滑と、水和潤滑、吸着膜潤滑、ゲル膜潤滑の関連をかなり明確化できた。固液二相有限要素解析により液相荷重支持率の摩擦への寄与(液相荷重支持率が高い場合は低摩擦維持)を明確化するとともに、MEMSセンサによる圧力の実測を可能とした。関節液成分の吸着挙動に関しては、タンパク成分の吸着量を表面プラズモン共鳴により検出し、吸着膜厚をエリプソメトリーにより計測する評価法を構築した。また、軟骨部流れ非侵襲計測を可能にするためにスペックル計測法を立案し装置を試作し評価した。 生体規範超潤滑ハイドロゲル人工軟骨の実用化に関しては、ゲルの製法により構造や物性を制御できることを示すとともに、製法や改質、潤滑剤との組合せによる摩擦・摩耗特性の改善策を検討し指針を提示した。また、ハイドロゲル表面の吸着膜形成に着目して、潤滑液成分の摩擦特性への影響を評価し、複数成分の組合せの重要性を明示した。新規の試作装置や購入装置については有用性を評価し利用を進めている。 家兎膝関節へのハイドロゲル人工軟骨埋入試験を行い、関節内環境での固定性を確認するとともに特別な異物反応などが発生しないことを確認した。並行的に、広い視点からハイドロゲルの生体適合性を評価するために、生物学的安全性試験を追加したが評価試験の準備・実施に長期間を要するために、必要経費を平成24年度へ繰越し、細胞毒性・皮膚感作性・皮内反応試験を行い、3試験での安全評価を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度と同様に、バイオメカニクス・バイオトライボロジー、バイオマテリアル、バイオメディカルの3グループ体制で、生体関節の構造・機構・機能の理解を深め、その成果を反映させて高機能ハイドロゲル人工軟骨の臨床実用化技術の開発を進める。 平成24年度には、軟骨やハイドロゲルの液中表面観察・物性計測が可能な原子間力顕微鏡を導入し、膝蓋大腿関節部を含む膝関節シミュレータを試作し新たな評価を可能にするとともに、摩擦・透過率計測やゲル構造制御関連の研究環境を改善・拡充する。また、バイオメディカルグループでは分担者の学外異動に対応して新規の学内研究分担者の参加を得て進める。 生体関節潤滑機構の解明に関しては、本年度に導入した表面プラズモン共鳴によりタンパク吸着量を検出し、エリプソメトリーにより吸着膜厚を計測することにより定量性を含めた吸着膜の解析を可能にする。固液二相潤滑に関しては、有限要素解析を各種の作動条件に拡張するとともに、流体圧の実測評価を進め、モデルの定量化に取り組む。スペックル法における流れ計測でも定量化に取り組む。 ハイドロゲル人工軟骨に関しては、繰返し凍結・解凍法とキャスト・ドライ法を基盤技術として、新たな構造・物性のハイドロゲルを試作し摩擦・摩耗挙動や強度特性を評価しながら、理論的視点に立ってゲルの高機能化を探求する。ハイドロゲル摩耗粉への異物応答の評価に関しては、滑膜細胞系マクロファージの単離法を開発し、評価実験系を構築する。 将来の人工軟骨の臨床応用に関連して、人工関節の臨床課題を解析し改善法としての人工軟骨の適応の可能性を検討する。軟骨部分欠損治療に対応する人工軟骨家兎膝関節埋入試験を行い、関節内環境での固定性や荷重支持機能、生体適合性などを評価する。
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