2012 Fiscal Year Annual Research Report
超高分解能3次元スピン分解光電子分光による新機能物質の基盤電子状態解析
Project/Area Number |
23224010
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 隆 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 教授 (00142919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 宇史 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10361065)
相馬 清吾 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (20431489)
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Project Period (FY) |
2011-05-31 – 2015-03-31
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Keywords | 光電子分光 / スピントロニクス / 新機能物質 |
Research Abstract |
電子エネルギー分析器においてスピン分解と非分解の同時測定のために、MCPを中心から内球側にシフトした位置に配置し、スピン分析系へ電子を移送するためのスリットを取り付けた。各電子レンズ電極の印加電圧、直流安定化電源、CCDカメラのキャリブレーションを行い、スピン非分解時のエネルギー分解能1meV以下、角度分解能0.2°を達成した。「低速電子回折スピン検出器」の設計と製作として、ミューメタルシールドを設置して地磁気を数nTまで低減し、ターゲット磁化のための2対のヘルムホルツコイルを磁場が直交する形でターゲット近傍に設置した。電子エネルギー分析器から2台のスピン検出器へ電子を移送する電子偏向器と電子ビームスプリッタの設計と製作として、シミュレーションに基づき、2つのスピン検出器へ等価な電子ビームが高スループットで導かれ、ターゲット上で10mmφ以下にビームが収束できるような最適な電極形状・配置・印加電圧を決定し、レンズ電極、ミューメタルシールド、電源制御システムを製作した。強磁性薄膜ターゲットの作成のために薄膜作成真空槽を立ち上げ、タングステン基板の清浄化を行った。その清浄度は、LEED、および角度分解光電子分光により確認した。さらにタングステン基板上で鉄薄膜のMBE成長が行えることも確認した。 スピン分解光電子分光装置の開発と同時並行して、いくつかのトポロジカル物質のARPES測定を行い、フェルミ準位近傍の電子状態を決定する事に成功した。その結果、新物質「トポロジカルクリスタル絶縁体」であるSnTe、ヘテロ構造物質(PbSe)5(Bi2Se3)3m、ディラック錐の電子構造の制御が可能な高バルク絶縁物質Bi2-xSbxTe3-ySey、またBi表面と界面における特異なラシュバ効果や、新トポロジカル絶縁体Pb(Bi,Sb)2Te4などを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の中核となる3次元スピン分解光電子分光装置の開発は、当初の計画通り順調に進捗している。スピン分解/非分解実験の両立のために二次元電子エネルギー分析器の後段部においてMCP検出器の改造を行ったが、電場調整、漏洩磁場の除去、アライメント調整などの結果、MCP上の光電子シグナルにおいてエネルギー分解能1 meV以下、角度分解能0.2°という性能を達成した。この事は、電子検出部の電場調整が良好に機能しており、スピン分解光電子分光測定時のMCP改造による分解能の低下が無い事を示している。低速電子スピン分析器、電子偏向器などの製作も順調に進んだ。強磁性薄膜ターゲットの作成のために薄膜基板を準備するための真空槽を立ち上げ、タングステン基板の清浄化に成功し、さらに、タングステン基板上で鉄薄膜のMBE成長が行えることも確認した。その他の装置開発として、高輝度発光のための光源の差動排気系の強化、発光紫外線を単色化するための真空紫外分光器の設計と製作、広範囲な運動量空間における電子構造解析のため2軸回転(仰角とアジマス角)の自由度を備えた新型多軸マニピュレータの設計と製作も順調に進展している。 研究開始当初の目標である「新型トポロジカル絶縁体の探索と電子状態の解明」については、新型トポロジカル絶縁体Pb(Bi,Sb)2Te4の発見に加え、当初の目標を越える成果として、トポロジカル絶縁体の研究当初ではその存在が全く知られていなかった、時間対称性ではなく空間対称性に基礎をおく「トポロジカルクリスタル絶縁体」と名付けられた新型のトポロジカル物質SnTeを発見した。今後、時間反転対称性が鍵となるトポロジカル絶縁体という枠組みにとらわれずに、様々な対称性によって保護された強固な表面状態を有する新型トポロジカル物質を探索する大きな指針を得ることが出来ると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
低速電子線回折スピン分解システムと電子エネルギー分析器の接続調整を行い、スピン分解分光装置の本格的稼働を目指す。装置の性能向上のために、分光系、電子エネルギー分析器、多軸回転マニピュレータ、スピン検出器のマッチング調整を行い、スピン分解時において1meVの超高分解能測定を実現する。また、ターゲットの改良などでスピン分解装置の実効シャーマン関数0.3を目指す。 建設・改良した装置を用いて、トポロジカル物質をはじめとする以下のスピントロニクス関連物質について、スピン依存電子状態の精密観測を行う。TlMX2、Bi23系、SnTe、およびBi1-xSbxの超高分解能ARPESを行い、表面ディラック電子状態のエネルギー分散と準粒子の寿命を精度よく決定して表面準粒子の散乱メカニズムを同定する。トポロジカル超伝導体の候補であるCuxBi2Se3およびIn置換SnTeについて高分解能ARPESを行い、フェルミ準位近傍のバンド構造・フェルミ面および多体相互作用を決定する。極低温における超高分解能測定を行い、超伝導ギャップの波数依存性の直接観測を試みる。超伝導体の電子構造を非超伝導系と比較することで、超伝導発現に必要な要素を絞り込む。Si(111)やトポロジカル絶縁体の上にBi超薄膜を作成してスピン分解ARPESを行い、表面電子状態と量子井戸準位のバンド構造とフェルミ面およびスピン構造を決定する。膜厚の薄い極限で、理論的に予想されている2次元Biにおけるトポロジカル相と実験的に決定した電子構造との比較を行う。La1-xSrxMnO3やホイスラー合金のスピン分解角度分解光電子分光を行い、スピン依存バンド構造の完全決定を行う。フェルミ準位上のスピン偏極度を精度よく見積もり、ハーフメタル相の存在の有無を明らかにする。得られたスピン偏極電子構造からスピントロニクス素子への応用法について検討する。
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Research Products
(35 results)