2012 Fiscal Year Annual Research Report
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23225001
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
平尾 公彦 独立行政法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 機構長 (70093169)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
常田 貴夫 山梨大学, 燃料電池ナノ材料研究センター, 教授 (20312994)
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Project Period (FY) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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Keywords | 光化学反応理論 / 長距離補正汎関数 / 非断熱相互作用 / Order-N化アルゴリズム / 軌道エネルギー / 反応経路探索 / 内殻軌道 / 自己相互作用補正 |
Research Abstract |
長距離補正(LC)密度汎関数法(DFT)にもとづく光化学反応理論の開発を目的とし、当該年度は時間依存DFT(TDDFT)にもとづく非断熱相互作用計算法、多配置DFT、スピン軌道相互作用を取り込んだ開殻TDDFTおよび相対論的汎関数の開発、軌道にもとづく反応解析法の提案、LC-DFT計算のOrder-N化、および光合成電子伝達機構の解明を計画していた。 非断熱相互作用計算法については、プログラムを共同開発し、応用計算を行なっている。多配置DFTについては、計算プログラムを開発し応用計算を行なったが、DFTと多配置理論の整合性が悪いという本質的な困難に直面した。スピン軌道相互作用を取り込んだ開殻TDDFTについては、開発したプログラムによる応用計算を進めている。LC-DFT計算のOrder-N化については、利用するアルゴリズムを選定し直し、現在プログラム開発の端緒にある。光合成電子伝達機構の解明については、実験結果に矛盾しない計算結果を得た。 当該年度は、軌道にもとづく新しい反応解析法について大きな進展があった。申請書執筆時点と状況が変わり、LC-DFTの軌道エネルギー高精度再現の重要性が増している。当該年度は、大規模分子の軌道エネルギー計算の結果、我々の開発したLC-BOPが最も高精度な結果を与えるという結果を得た。さらに重要なことに、LC-DFTの軌道エネルギーの反応座標上の変化を解析した結果、ほとんどの反応は初期に電子移動で進行すること、それをもとに反応経路が特定できることを明らかにすることに成功した。 さらに、相対論的汎関数の開発の第一歩として、相対論効果の大きい内殻軌道の軌道エネルギーに対するLC-DFTの過小評価の問題にも取り組んだ。我々の開発した擬スペクトル領域的自己相互作用補正を適用した結果、内殻・価電子軌道エネルギーの同時高精度再現に世界で初めて成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度まで、交付申請書の研究計画に記載した研究課題をさまざまな形で着々と進めてきた。時間依存(TD)密度汎関数法(DFT)にもとづく非断熱相互作用計算法については、研究分担者が大阪大の重田育照准教授との共同研究で進めており、順調に計算プログラム開発は済ませ、応用計算の段階にある。スピン軌道相互作用を取り込んだ開殻TDDFTについては、研究分担者が分子研の石田干城助教と産総研の中田彩子博士との共同研究で進め、現在応用計算を開始する端緒にある。長距離補正(LC)DFT計算のOrder-N化については、これまでそのアルゴリズムに関して考えてきたが、Order-N化のための戦略がようやく固まり、ようやくプログラム開発に取り掛かっている。応用計算についても、光合成の電子伝達機構に関する計算は済ませた。他の研究課題についても研究期間内に取り組む予定であり、おおむね順調に計画を遂行できている。 研究計画の1つであるが執筆した時点ではさほど重視していなかった研究課題である「軌道エネルギーにもとづく反応解析法」の研究の重要性が予想を超えて高まっている。本研究者らが開発した長距離補正(LC)密度汎関数法(DFT)が、価電子軌道エネルギーを包括的かつ定量的に再現できる唯一の方法である。昨年度は特にこの課題に重点的に取り組み、新しい反応解析法や内殻軌道エネルギーも再現できる方法を提案するなど当初の研究計画以上の業績を達成することに成功している。 一方で、同じく研究課題の1つである「多配置DFT」については、研究が困難を極めている。独自の多配置DFTを開発して計算プログラムを開発した。しかし、多配置波動関数とDFTとの理論的整合性の悪さにより、応用計算において期待したほどの結果を得ることができなかった。この困難を解消するためにはさらなる洗練されたアイデアが必要であるため、現在一時中断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度以降の研究についても、基本的に交付申請書の研究計画に則って遂行する。「時間依存(TD)密度汎関数法(DFT)にもとづく非断熱相互作用計算法の開発」については、ようやく共同研究によって応用計算段階に至っており、今後はさらに洗練させるとともに、より広範囲な計算系の応用計算を行なう予定である。「スピン軌道相互作用を取り込んだ開殻TDDFTの開発」についても、本年度本格的に応用計算に取り組む予定である。すでに計算系の選定は済んでいる。「長距離補正(LC)DFT計算のOrder-N化」については、最近ようやく選定した交換積分のOrder-N化アルゴリズムをLC-DFT計算に適用した計算プログラムの開発に取り掛かり始めた段階である。本年度中にはプログラム開発と応用計算は済ませる予定である。うまく計算がOrder-N化しない場合は、早い段階でアルゴリズム開発に軸足を移す。「相対論的汎関数の開発」についても、遅くとも本年度の後半には取り掛かる計画を立てている。一方、同じく研究計画にあげていた「多配置DFTの開発」については、研究を進めていった結果、本質的に困難な問題があることが明らかになった。この困難を解消するには問題を解決するための新しいアイデアが必要であり、一時中断を余儀なくされている。 「達成度」の欄で書いたように、研究計画の1つである「軌道エネルギー」に関する研究の重要性が高まっている。軌道エネルギーを定量的に再現できる世界初の理論が本研究者らが開発したLC-DFTである。そのため、軌道エネルギーに重点を置いた研究がより独創性と重要性の高い研究業績を達成する最適な戦略であるといえる。したがって、交付申請書における研究目的である「光化学反応理論の開発」は、軌道エネルギーを重視した化学反応全般に関する研究に拡張すべきであると考えている。
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Research Products
(17 results)
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[Presentation] Recent Advances in LC-DFT2012
Author(s)
K. Hirao
Organizer
Electronic Structure Theory for Strongly Correlated Systems
Place of Presentation
Hotel La Torre, Palermo, Italy
Year and Date
20120530-20120601
Invited
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