2014 Fiscal Year Annual Research Report
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23225001
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
平尾 公彦 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 機構長 (70093169)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
常田 貴夫 山梨大学, 総合研究部, 教授 (20312994)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 密度汎関数法 / 電子状態計算 / 量子化学 / 光化学 / 反応化学 / 物性化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、現在主要な量子化学計算理論の1つとなりつつある本研究者らが開発してきた長距離補正(LC)密度汎関数法(DFT)にもとづき、複雑に電子状態が連関しあう大規模系の光化学反応の解析理論の開発を目的としている。H26年度は、軌道エネルギーにもとづく化学反応解析法の開発をさらに進め、昨年度までに特徴的な振る舞いを確認していたSN2反応や対称反応を検証した。 これまでのLC-DFTでは交換エネルギーの算出において長距離補正を行ってきたが、今年度は新たに相関エネルギーの算出において長距離補正を行う試みに取り組んだ。長距離相互作用が重要となる分子物性計算において有用であることが確認できた。今後さらなる高精度計算を実現する密度汎関数法の開発のための足がかりを確立することができた。 また、本年度はこれまでの電子状態計算手法の開発にとどまらず、原子核や陽電子を電子と同じく量子的に取り扱う新しい密度汎関数法の開発に取り組み、Multicomponent MO法に基づく新しい密度汎関数法を提案した。その結果、原子核の量子効果が重要となるような分子系、ミューオニウム分子や陽電子を含む分子系への適用が可能となった。 軌道エネルギーにもとづく反応解析法を用いて最低エネルギー経路の反応性の低さが予想されたSN2反応については、直線的に反応が進行する最低エネルギー経路を通らない可能性が実験的に示されていることを確認した。同様に最低エネルギー経路では反応性が低いと考えられる対称反応(反応物と生成物が同じ反応)については、より可能性の高い新しい反応経路を提案できた。 さらに、LC-DFTの応用計算にも精力的に取り組んだ。燃料電池の低湿電解質膜のプロトン伝導機構についてリレー機構を提案した。酸素を含むエステル・アルコールの反応障壁やイオン化ポテンシャルもきわめて高精度に計算できることを確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画と比較すると、個別の課題では当初見込みより重要性を増して大きく進展した課題もあれば、状況が変化して重要性が低下した課題や困難さが新たに分かった課題もあるが、前者が明らかに勝るためこの評価とした。 当初見込みより大きく進展した課題には、軌道エネルギーにもとづく化学反応解析法と固体など大規模系のバンドギャップ計算理論の開発がある。軌道エネルギーにもとづく反応解析法により、反応経路の評価ができることが初めて示された。すなわち、これまでの反応解析では反応は最低エネルギー経路を採ると仮定されてきたが、それ以外の反応経路を採る場合もあり、この反応解析法を使えばそれを判定できることが明らかになった。また、大規模系のバンドギャップ計算理論として2電子励起効果を簡便に取り込めるとされるスピンフリップ(SF)時間依存(TD)密度汎関数法(DFT)に長距離補正(LC)DFTを適用した理論を構築している。 一方、TDDFTにもとづく非断熱相互作用計算法や多配置理論、相対論的汎関数の開発、および光化学反応の応用計算については、状況の変化により当初の見込みほど進んでいない。共同研究により非断熱相互作用計算法の理論構築と計算プログラム開発はすでに終わっているが、従来法と比べて計算結果にさほど優位性がないことが明らかになった。多配置理論は上記SF-LC-TDDFTの開発により開発意義が大幅に減った。相対論的汎関数も導出済みだが、電子間相互作用の相対論的効果はさほど重要でないことが判明した。また、光化学反応の応用計算については、汎用プログラムに導入されて多くの研究者に利用されており、助言を行なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度も大規模系の光化学反応理論に関する残された課題に取り組むとともに、金属触媒の電子移動反応解析に向けた理論構築に取り組んでいく。 前年度開発したスピンフリップ(SF)時間依存密度汎関数法(TDDFT)の精度を高めるため、励起エネルギー過小評価の問題の原因を解明し、その補正を考える。エキシトン結合エネルギー(HOMO-LUMOギャップとバンドギャップの差)や励起状態の特性についても詳細に議論する。また、軌道エネルギーにもとづく反応解析理論である反応軌道エネルギー論については、フロンティア軌道論のような反応分子軌道論の拡張として理論的に基礎づける。また、反応経路自動探索法による反応エネルギーダイアグラム計算の結果と比較検証し、その関連性を明らかにする。さらに、TDDFTにもとづく非断熱相互作用計算法の開発も引き続き共同研究で行なう。LC-DFT計算のOrder-N化にも引き続き取り組む。これまで、律速過程である長距離交換積分計算について、計算精度を維持しながら積分量を削減して効率化してきた。現在、その知見をもとにアルゴリズム開発を行なっている。また、固体バンド計算についても、長距離交換の効果を取り込んだ高精度かつ高速な固体バンド計算の実現に向け研究を進めている。これまでに開発してきたgau-PBE汎関数やgau-PBEh汎関数をLC-DFTへと拡張した理論を開発する。 これまで開発してきた理論を使った応用計算も行なっていく。燃料電池の電解質膜のプロトン伝導機構としてのリレー機構を検証するため、赤外吸収スペクトル計算を行ない、実験結果と比較検証する。燃料電池の白金ナノクラスタ触媒上の酸素還元反応についても、反応軌道エネルギー論をもとに理論的に解明する。
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[Journal Article] Assessment of hybrid, meta-hybrid-GGA, and long-range corrected density functionals for the estimation of enthalpies of formation, barrier heights, and ionisation potentials of selected C1-C5 oxygenates2015
Author(s)
A. M. El-Nahas, J. M. Simmie, A. H. Mangood, K. Hirao, J.-W. Song, M. A. Watson, T. Taketsugu, N. Koga
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Journal Title
Mol. Phys.
Volume: 113
Pages: 1630-1635
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] 理論化学の現在と未来2014
Author(s)
常田貴夫
Organizer
第42回北大理論化学セミナー
Place of Presentation
北海道大学、北海道札幌市
Year and Date
2014-06-12 – 2014-06-12
Invited
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