2012 Fiscal Year Annual Research Report
高効率な光捕集・局在化を可能にする光アンテナの開発とその太陽電池への応用
Project/Area Number |
23225006
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三澤 弘明 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (30253230)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村越 敬 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40241301)
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Project Period (FY) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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Keywords | 局在プラズモン / ナノ材料 / 光物性 |
Research Abstract |
1.大きな光電場増強を実現する光アンテナの設計と創成 本年度は、金ナノ構造/酸化チタン界面の構造が光誘起電子移動反応に及ぼす影響について、透過電子顕微鏡観察(TEM)と電子エネルギー損失分光(EELS)測定により明らかにした。酸化チタン単結晶基板上に金ナノアイランド構造を作製する際の温度を変化させることにより金ナノ構造/酸化チタン界面の構造を制御した。光電変換特性、TEM、およびEELS測定結果から、金が酸化チタン単結晶表面に原子レベルで密着している場合にのみ高効率な電子移動反応が誘起されることを明らかにした。特に、表面構造解析から、酸化チタン単結晶表面に数原子層の厚みで形成される酸化チタン還元層の存在が安定な電荷分離の形成を阻害していることが明らかになった。 2.太陽光を金ナノ構造に強く結合させるナノシステムの開発 真空蒸着法を用いてπスタッキングしたダイポールモーメントの大きいフタロシアニン分子を可視域に局在表面プラズモン共鳴を示す銀ナノ構造上に高密度に配置し、プラズモンと分子の強結合状態を誘起するとともに、その分光特性を明らかにした。また、金の結晶構造が光電場増強効果に与える影響について金2光子発光計測により明らかにした。ファノ効果を示す光アンテナ構造(金(30 nm)/アルミナ(10~30 nm)/金(30 nm)の3層構造)の分光特性を明らかにするとともに、近接場空間分布を多光子励起の光電子顕微鏡により可視化し、光電場増強効果を検討した。さらに、金属ナノ構造のサイズや形状、あるいは構造間距離がプラズモンのダイナミクスに及ぼす効果について、時間分解計測により明らかにすることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以下の研究達成項目から本課題が当初の計画以上に進展していると判断した。 平成24年度の研究実施項目に沿って、金ナノ構造と酸化チタン界面の構造が電子移動反応効率に及ぼす影響を透過電子顕微鏡観察と光電気化学測定により明らかにした。特に、ナノメーターの空間分解能を有する電子エネルギー損失分光計測法を用いることによって金と酸化チタン単結晶の原子レベルの密着性が電子移動反応効率向上に大きく寄与することを明らかにした点は、当初の計画以上の成果である。 また、高性能光アンテナの形成を目指し、双極子モーメントの大きい分子を金属ナノ構造に配置し、強結合状態を誘起するとともに、その分光特性を明らかにした。真空蒸着法を用いて極めて精緻に分子を構造上に配置する技術を見出したことが定量的な計測に繋がり、当初の予定よりも早く分光特性を明らかにすることができた。 さらに、時間分解光電子顕微鏡を用いて金ナノ構造上に形成した局在プラズモンによる光電場増強場を可視化することに成功するとともに、フェムト秒の時間分解能によって様々な構造を有する光アンテナの光電場増強場の位相緩和の観測にも成功したことは、本研究分野の研究者に大きな衝撃を与えるものであり、当初の計画以上に研究が進展していると評価できる。 一方、本プロジェクトを推進する中で、金ナノ構造/酸化チタン電極に可視・近赤外光を照射すると、電極界面で水が光酸化して酸素が発生することを見出した。通常、水の光酸化による酸素発生には過電圧が必要であるが、本系はほとんど過電圧が必要ないという優れた特徴を有しており、これを利用して外部回路による電圧を印加することなく可視光照射による水の分解を実証した。本成果は、本システムが太陽電池のみならず、長波長光を有効利用する新しい人工光合成の研究に展開できることを示しており、当初の予測を遥かに超える重大な研究成果であると確信する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において、高精度金属ナノ構造作製技術、高い光電場増強を有する構造設計の最適化、プラズモン-分子極結合状態の分光計測、光の散乱を抑制するファノ効果を示す金属ナノ構造の設計・作製、界面の構造が光電変換特性に及ぼす効果、およびプラズモンのダイナミクスについて明らかにした。今後は、プラズモン-分子間の強結合状態の時間分解計測、強結合状態が光電変換特性に及ぼす効果、さらに光の散乱を抑制する金属ナノ構造を用いた高効率光電変換デバイスを構築し、系の最適化を行う。
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