2011 Fiscal Year Annual Research Report
1keV領域での高次高調波発生とアト秒軟X線分光への展開
Project/Area Number |
23226003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (S)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
板谷 治郎 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50321724)
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Keywords | 量子エレクトロニクス / 量子ビーム / 放射線、X線、粒子線 / 高性能レーザー / 超精密計測 / テラヘルツ/赤外材料・素子 / 光源技術 / 原子・分子物理 |
Research Abstract |
当該年度は、光パラメトリックチャープパルス増幅法(OPCPA)に基づく赤外域での高強度レーザー開発を集中して行った。この光源は本研究計画の根幹をなすものであり、その成否が重要な鍵となる。一年間の光源開発によって、OPCPAの励起光源となるチタンサファイアーレーザーシステムが中段増幅器まで完成し、繰り返し1kHzで約6mJの出力を得た。この出力光をパラメトリック増幅器の励起光として用い、その一方で、差周波発生によって得られた超広帯域白色光(波長域1.1~2.2ミクロン)をシード光として、二段階のパラメトリック増幅をBIBO結晶中で行った。その結果、パルスエネルギー0.55mJ、パルス幅8.2フェムト秒で位相制御された赤外域高強度パルス光を得ることに成功した。この出力は、波長1.5ミクロン帯において世界最短のパルス幅である。 得られた高強度赤外光を用いて、ネオンガスを媒質とした高次高調波発生実験を行った結果、光子エネルギー280電子ボルトを越える「水の窓」領域の軟X線発生を確認した。過去に波長800nmの近赤外レーザーで観測した「水の窓」領域の高次高調波と較べて、約10倍のフォトンフラックスが得られていることから、高強度長波長レーザーを用いる優位性が確認できた。また、アルゴンガスを媒質とした高次高調波発生実験では、(i)光子エネルギー100電子ボルト以下において高調波スペクトルのピーク位置がキャリアエンベロープ位相に明瞭に依存すること、および(ii)光子エネルギー100~130電子ボルトにおいて連続的なスペクトルが観測された。これらの特徴は、単一アト秒パルスを発生させるために満たすための条件であり、適切な分散補償を行うことによって、100アト秒程度の軟X線超短パルスを発生出来る見通しを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
OPCPA法による高強度赤外光源の開発では、本研究課題の主要テーマとなるアト秒軟X線パルス発生のために、数サイクル程度までのパルス幅の短縮が最重要課題であった。初年度の目標は15フェムト秒としていたが、パルス幅8フェムト秒台が得られたことは予想外の成果であった。得られた赤外パルスの時間幅が短いため、少ないエネルギーで高いピーク強度を実現できた。その結果、平成24年度以降の計画項目であった高調波発生実験を前倒しで実施し、「水の窓」領域での高次高調波発生に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
高次高調波発生実験を前倒しで実施したため、最終段レーザー増幅器と軟X線分光器の開発に遅延が生じているが、平成24年度に無理なく完了できる見込みである。今後は、励起レーザーの高出力化を進め、世界最短パルス幅での高強度化(パルスエネルギーとしては2mJ程度)を図る。これによりヘリウムをターゲットとして、400~500eV程度までの高次高調波の短波長化を進める。また、開発された波長1.5ミクロン帯のOPCPAレーザーの一部を転用することにより、波長3ミクロン帯の高強度中赤外レーザー光源の開発に着手し、本研究課題の目標である1keV領域の高次高調波発生に挑戦する。 アト秒計測に関しては、パルス幅8フェムト秒台が得られている波長1.5ミクロン帯のOPCPAレーザーを用いて、単一アト秒パルスの発生と、アト秒ストリーク法に基づくアト秒パルス計測を行う。
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