2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23226013
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
陣内 秀信 法政大学, デザイン工学部, 教授 (40134481)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 毅 東京大学大学院, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20168355)
出口 清孝 法政大学, デザイン工学部, 教授 (30172117)
石神 隆 法政大学, 人間環境学部, 教授 (30297999)
宮下 清栄 法政大学, デザイン工学部, 教授 (40139382)
高村 雅彦 法政大学, デザイン工学部, 教授 (80343614)
岡本 哲志 法政大学, デザイン工学部, 教授 (20709349)
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Project Period (FY) |
2011-05-31 – 2016-03-31
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Keywords | 水都 / 歴史 / 環境 / 類型 / 政策 / 文化的景観 / 水辺空間 |
Research Abstract |
世界の「水都」を比較研究し、その立地、及びそれと結びつく都市形態の在り方から類型化を試み、時代ごとの水都形成の大きな流れを歴史的に把握できた。同時に、その認識を基に、現在、世界の水都の再生がどのように展開しているかを系統的に解明できた。昨年度末実施した調査の分析から、ハンブルクなどの運河が巡る水都の空間構造は、都市全体が港の機能をもつ「内港システム」をとったが、時代が下ると港湾施設・機能が大型化し、港湾の活動が内部の運河から外の広い近代運河へ、さらに海や大河に開く「外港システム」へと転換した。究極の港の形態が、ニューヨークが示す桟橋群が連なる港湾空間の形式である。コンテナー埠頭化など物流システムの近代化で、港湾空間は都市の中心から遠ざかり、荒廃状態にあったが、1980年代以後、世界各地でダイナミックな都市空間として蘇りを見せており、こうした一連の歴史的な動態を国際比較の上で分析・考察した。 また、合理性・機械化を追求し自然・水を人間の意思で支配・制御・活用した西洋文明における水都の在り方を明確に把握できた。水車の活用が産業、特に繊維、鉄鋼などの産業が英国、ドイツに発達し、北米に伝播して、新たなダイナミズムをもつ近代産業社会の水都を内陸河川沿いに形成した。それを支えたのが河川、運河の舟運システムで、閘門で水位を調整し運河の舟運を活用する都市、地域づくりが大々的に展開した。それはイタリアに始まり、フランス、ドイツ、そして産業革命とともに英国、さらには北米に伝播し、広範な舟運ネットワークを形成した。なかでも、海面の干満差の大きい英国では、閘門で船の出入りを調整するドックが発達し、19世紀的な独自の港システムを築いた。20世紀後半には衰退したが、近年、各地でその水辺空間が再生の対象となっている。以上のような欧米の水都の形成・発展・衰退、・再生の論理を、歴史的かつ系統的に解明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「3.11」以後の日本社会における価値観の大きな転換を踏まえた、本研究の研究計画の枠組みの再検討を通して、当初、想定していた「水都」研究の対象の選び方、研究の方法に止まらず、より大きな視点での研究のダイナミズムを構想できるようになった。「水都」の概念の見直し、再定義を行う可能性が見えてきた。 具体的には、研究対象となる水都としては、重要かつ地名度が高く象徴的なエリアとなっている臨海部や河川流域に発達した大規模な都市を具体的な対象として想定していたが、時代の価値観の転換を鑑み、「地域」再生の方向を目指す考えに立って、中小の水の町も研究対象に取り込み、より複眼的で重層的な水都研究への道が開けた。 また、欧米における水都の形成の歴史的系譜を、文献調査と現地調査を通して、中世から近世、初期近代、近代後期と動的に把握することができ(伊→仏→独・英→米)、水力による水車→タービン、運河=閘門による舟運の発達によってルネサンス、産業革命、近代工業化時代と変遷し、各時代の水都を形成したメカニズムとその都市形態が明確に描けた。こうした欧米の進化・進展する水都の在り方と、水がより人々の身体に近く日常生活に密着し、水辺が象徴的な存在であり続けてきたアジア・日本の水都の在り方との比較考察がこの段階でかなり可能になったことは、予想以上の収穫である。特に、日本の場合、東京研究で明らかになったように、都心・下町ばかりか、むしろ郊外、田園の地域の中にも、川、崖線・湧水、用水路、池などが形づくる水の都市、水の地域の独特のエコロジーと結びついた空間構造が今なお受け継がれていることが発見できた。これこそ21世紀の世界が求める都市:地域の在り方にとっての一つのモデルであり、その価値づけの方法論とその環境システムを再生、育成する方法論を研究することがまた新たな課題となってきたのである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究対象の事例を増やしながら、立地と形態から見た類型の系譜を歴史的にダイナミックに分析考察する作業を継続して行う。さらに、重要かつ地名度の高い臨海部や河川流域に発達した都市で、まだ調査できていない都市(ベルリン、シドニー、アンコールワット等)の新規の調査をも踏まえて実施する。内部河川沿いの水都(我が国では、扇状地、蛇行帯、三角州に分類可能)、海沿いの水都(平坦な水網都市、背後に丘をもつ入江型)等の類型ごとの特徴が、より鮮明になろう。特に、水害に悩まされる我が国では、治水の在り方と舟運、産業などへの利水の両面から水都の構造、形態がどう決まったかを明らかにする視点も重要になる。 また、産業革命以後の近代の水都の類型化も重要なテーマとなる。水車→タービン、運河=閘門の活用などに特徴づけられる欧米の近代水都と、その影響を受けつつも独自の展開をした日本における近代の水辺空間の在り方の比較分析を行う。臨海部では、ボストンと東京など、近代の埋立てによる水の都市空間の形成の比較も大きな視点となる。 同時に、新たに導入した「テリトーリオ(地域)」の概念とその研究方法をさらに強め、よく知られた水都を都市だけ切り取って見るのではなく、その後背地に広がる農村・田園、中小の町にも目を向け、川や運河を通じて成り立つ相互関係のなかで都市・地域を分析考察する研究方法を確立する。川の流域圏に加え、海辺都市と河川流域の産業・港湾都市群、内陸の流域圏と海沿いの港町を結ぶテリトーリオの構造のあり方を時代による変化も含め研究する。それらの成果を集大成し、水都学の新たな広がりを展望する。 立地、形態、歴史的発展段階などと関連して分類できる類型ごとに検証し、類型間における相違点/多様性と共通する普遍的原理の両方を明らかにする。当初の目標である水都の共通原理、水都の個性を生み出す原理を解明することを目指す。
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