2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23226014
|
Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
松本 要 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10324659)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 隆 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20314049)
淡路 智 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (10222770)
西嵜 照和 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (90261510)
|
Project Period (FY) |
2011-05-31 – 2016-03-31
|
Keywords | 薄膜 / ナノ組織制御 / 超伝導 / 磁束ピン止め / シミュレーション |
Research Abstract |
人工的な量子化磁束のピン止め点導入による臨界電流密度の最適化を進めてきた。2次元時間依存ギンツブルグ・ランダウ(TDGL)シミュレーションによればコヒーレンス長とほぼ同等なサイズのランダムピンを20%程度導入することで、対破壊電流の18%まで臨界電流値を増大させることが可能なことが示された。ピン止めの形状が電流方向に伸びた異方的なピン止めを導入すれば、臨界電流値はさらに上昇することも確認された。大規模な3次元のTDGLシミュレーションも開発中であり、今後もより効果的なピン止めのためのピン構造を明らかにしていく。原子・分子レベルから、YBCOヘテロエピ薄膜への自在なナノ構造導入の研究も進めてきた。これまで開発してきた1次元、2次元、3次元の人工ピンを独立して利用するだけでなく、1+3次元や1+2次元などのように、それぞれの特徴を組みわせることで,ピン止め特性を向上させることも実施した。1次元人工ピンにランダムな3次元人工ピンを導入すると、高磁場中において顕著に臨界電流値が上昇することを確認した。このとき、1次元人工ピンを適度に切断すると不可逆磁場が低温側にシフトすることを確認し、この現象がボーズグラス理論によって定量的に説明できることを示した。さらにSmBCO薄膜に1次元のBaHfO3人工ピンを導入することで、77Kにおいて15Tの不可逆磁場を得るとともに、28GN/m3の巨視的ピン止め力を達成した。Sm系とBaHfO3ピンとの相性はよく今後の応用展開においても有望であると考えている。またピン止め構造のミクロな評価、および、STMによる超伝導/ピン止め物質界面の秩序パラメータの空間変化の局所測定をめざして低温下においてSmBCO/BaSnO3界面の測定を実施した。歪みゲージと汎用X線装置による定量的な内部歪み測定を行うともに、臨界電流密度と歪みとの関係も明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2次元時間依存ギンツブルグ・ランダウ(TDGL)シミュレーションを用いた超伝導体の臨界電流密度設計に関しては、本グループの研究が国内外においてリードしている。この手法で得られたシミュレーション結果は、実際の超伝導体中のピン止め点と臨界電流との関係をよく記述しており、信頼性が高い。特にピン止めのサイズ・空間分布と臨界電流との関係は多体系・複雑系であって理論的および実験的な解析はきわめて難しいが、シミュレーションではピン止め配置と臨界電流との関係が一目瞭然であり、有意な情報を多数含んでいる。シミュレーションデータに基づいて、量子化磁束の動的なデピンニング過程の映像化・可視化にも成功しており、今後この技術はピン止め制御技術の発展において大きく貢献するものと期待できる。またエピタキシャル高温超伝導薄膜への、様々な人工ピン導入の実験的研究も実施して多くの知見を得ている。当グループは、人工ピンを用いたピン止め制御技術に関してトップクラスにあり、世界的にも研究をリードしている。最近では、1次元人工ピンを多層膜化によってナノスケールの精度で分断し、人工ピンの空間分布の精密制御に成功した。この手法によってマッチング磁場以下の領域でピン止め点の定量的な評価が可能となり、臨界電流の理論値とのずれから、量子化磁束格子の変形や積層欠陥等の付加的なピン止め点の影響などが議論できるようになった。この手法を、今度より発展させていけば、上記のシミュレーションと理論・実験との比較検討が可能となり、信頼性の高いピン止め制御技術として確立できると考えている。また、詳細なTEMによるナノ構造評価や低温STMによる電子状態分布観察と、第一原理計算等による電子状態や組織エネルギー等との比較も可能となりつつあり、エピタキシャル薄膜へのナノ構造導入の観点からも本グループの研究は興味深いと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続いて,磁束ピン止めの最適設計技術の高度化を進める。理論上限に近いローレンツ力下において量子化磁束をピン止めするには、ピン止め力が量子化磁束の張力を上回る条件が必要である。このような条件を、理論およびシミュレーションを用いて見出すとともに、実際の物質で実現するための物質設計を行う。従来の2次元時間依存ギンツブルグ・ランダウ(TDGL)シミュレーションに加えて、現実に近い3次元TDGLシミュレーションのコード開発を進め、大規模なシミュレーションを実行して、ピン止めから量子化磁束がはずれるデピンニングプロセスを明らかにしていく。原子・分子レベルから、YBCOに加えてSmBCOやNdBCO薄膜等へのナノ構造導入の実験的研究も継続して進めていく。これまで開発してきた1次元、2次元、3次元等の人工ピンに、さらに異なる次元の人工ピンを種々組みわせることで、ピン止め特性を向上させることを引き続いて実行する。最終的にはこれらの手法を駆使して、実際にJc/J0 > 30%を達成するための薄膜技術を明らかにすることを目指す。また、結晶成長に関わる材料科学にも焦点をあて、エピタキシャル超伝導薄膜中のナノ構造成長プロセスの解明も進める。この点に関しては、分子動力学法やVASP等による第一原理計算によって超伝導/ピン止め点界面の界面形成エネルギーの評価とともに、ナノ構造における電子状態の空間変化についても調べ、ピン止めエネルギーに関する知見を得る。超伝導体中のナノ構造や歪み分布に関してはTEM等による原子レベルの評価とともに、低温STMによって実際の超伝導/ピン止め物質界面の秩序パラメータの空間変化の局所測定も実施し、従来にない総合的かつ詳細な解析法を実現していく。ここで得られた知見は人工ピン構造と薄膜作製に反映させ、より高性能な超伝導薄膜を実際に作製する。
|
Research Products
(24 results)