2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23240033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡ノ谷 一夫 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30211121)
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Keywords | 人工文法 / オペラント条件付け / 事象関連電位 / 埋め込み構造 / 比較認知科学 / 言語起源論 |
Research Abstract |
本研究は、人間の持つ言語機能の基盤が、人間以外の動物でどう発現しているのかを、人工文法の知覚を手がかりとして行動レベルおよび脳機能レベルで比較検討しようとするものである。初年度は、研究の現状を把握するため文献調査とトリおよびヒトが単純な規則を学習するかどうかを調べるための行動実験を行った。 文献調査の結果は1本の総説論文としてまとまり出版された。この総説の中で、鳥の歌が有限状態規則を超えるものではないこと、鳥の歌には人間の言語と同じ意味では階層構造が存在しないことを明らかにした(Berwick, Okanoya, Beckers & Bolhuis, 2011)。 ヒトとトリを用いた比較行動研究においては、ABBとABAという単純な規則を、A,Bそれぞれを構成する音韻の特異性を超えたルールとして抽出できるかどうかを検討した。ヒトについては訓練段階ではフィードバックを与え、テストでは与えなかった。トリについてはオペラント条件づけで弁別を訓練し、テストでは強化のないプローブ刺激を提示した。ヒトにおいては、統計的に有意になるレベルで弁別は可能であったが、非常に難しかった。トリにおいては音韻に基づくに固執し、ルールに基づく弁別に至ることがなかった。これらの結果は、ヒトについては2012年に出版され(Sun, et al, 2012)、トリについては2012年3月の国際会議で発表された(Okanoya, et al, 2012)。ヒトにおいては行動に加えて脳波計測も行い、意識的に弁別できてなくても、ルール抽出に対応した脳波(N400)が検出できることを示した。 これらに加え、トリについては条件づけによらない自然な発声行動の変化から刺激への順化・脱順化を測定する方法を試みた。この方法はそもそも刺激依存性があまりに高く、信頼できる方法として人工文法の弁別には利用できないことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の開始に合わせて、研究全般を推進するフルタイムの博士研究員を雇用する予定であったが、本研究に必要な言語学から生物学に至る能力と興味および挑戦的な課題をまかすに足る実績を持つ人物を選定することができなかったため、やむを得ずパートタイムの研究員や学生アルバイトを雇用して研究を開始した。 このため、トリとヒトの共通課題としての埋め込み文法を用いた課題の確立が進まず、比較的単純な規則(ABBとABAの弁別)の学習から研究をスタートすることにした。しかしながら、この課題であってもトリとヒトの規則学習方略の差異が浮き彫りになり、興味深い成果を得たと言える。 加えて開始した自然な発声行動による順化・脱順化法が刺激依存性が高いことから人工文法の弁別には不適切であることが判明したため、埋め込み規則の学習については、文献的な研究にとどまってしまった。今後は主にオペラント条件づけを手法としてヒトとトリの比較研究を進めるべきであるとの結論に達した。 計画したような進捗状況とは言えないものの、研究の可能性と問題点が明確になったのは貴重な収穫であったと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
研究をより迅速に推進展開するため、言語学・生物学ともに知識と興味を持つ博士研究員を雇用することが急務である。幸い、言語学および脳科学で学位を取得し、海外で博士研究員を務め十分な業績を持つ研究員から打診があり、この人物を雇用する準備を進めている。 埋め込み構造を扱った論文を精査しているうち、埋め込み構造の理解には系列操作能力のみならず作動記憶の発達が必要なのではないかと思い至った。これを調べるためには、作動記憶の負荷と系列操作の負荷を独立に操作できるような刺激が必要である。雇用予定の博士研究員とともに、そのような刺激の準備を現在進めている。 作動記憶の負荷を刺激によって操作する方法に加え、電気的な刺激(経頭蓋的直流刺激)によって作動記憶を昂進または抑制することが可能であることがわかっている。この方法を用いるかどうかを含め、次年度の研究を計画中である。 これらの準備状況を踏まえ、次年度では埋め込み構造の理解を直接テストするような課題で、しかもトリとヒト同等の認知的負荷で可能な課題を開発したいと考える。
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