2012 Fiscal Year Annual Research Report
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23240033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡ノ谷 一夫 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30211121)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 人工文法 / オペラント条件付け / 事象関連電位 / 埋め込み構造 / 比較認知科学 / 言語起源論 |
Research Abstract |
本研究は、人間の持つ言語機能の基盤が、人間以外の動物でどう発現しているのかを、人工文法の知覚を手がかりとして行動レベルおよび脳機能レベルで比較検討しようとするものである。平成24年度は、引き続き研究の現状を把握するための文献調査と、新たにトリとヒトを用いて埋め込み構造の学習をさせるための行動実験を行った。並行して、ルール抽出を細胞レベルで理解するため、トリの高次聴覚野に多点電極を刺入して、オッドボール課題に対応する神経細胞があるかどうかを検討した。 文献調査の結果は2本の総説論文としてまとまり、出版された。この総説の中で、動物における人工文法研究の問題点を指摘した(ten Cate & Okanoya, 2012)。そもそも意味を持たない記号の組み合わせからは階層構造は出来ないのではないか、という点である。 ヒトとトリを用いた比較行動研究においては、ABBAとABABという単純な規則を学習させようとしている。ヒトは成人および10歳以下の児童も含む。児童を対象とした試験研究で、対称性を認知させるための要素を中央に埋め込むことで、この弁別が飛躍的に容易になることを発見した。すなわち、ABCBA、ABCABという弁別にすることである。この知見は現在総説論文として査読中である。また、この知見をトリに生かした実験を進めているところである。 トリを用いた電気生理実験では、トリの高次聴覚野に順化・脱順化を示す神経細胞があり、これらの神経細胞はオッドボール課題に対応する応答をすることを発見した。これらの神経応答を利用して、より高次な規則抽出が可能かどうかを検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の開始に合わせて、研究全般を推進するフルタイムの博士研究員を雇用する予定であったが、本研究に必要な言語学から生物学に至る能力と興味および挑戦的な課題をまかすに足る実績を持つ人物を選定することができなかった。初年度の終わりにそのような人物を探すことができたので、この人物を研究員として雇用し、加えて、パートタイムの研究員や学生アルバイトを雇用して研究をよりいっそう進捗させた。 初年度から引き続き行われたヒトとトリの単純なルール抽出(ABBとAABの弁別)についての論文が完成し、査読中である。今年度に入ってから、ヒトとトリにおいて比較可能な課題として埋め込み課題の弁別を進めている。並行して、ヒトにおいては脳波を、トリにおいては多点神経細胞記録を指標としてルール抽出に対応する神経機構を探っている。さらに、経頭蓋的直流刺激装置を購入し、これらのルール抽出に作動記憶が及ぼす役割を検討しはじめた。これらの研究経験を反映して、ヒトの言語の成り立ちについて考察した論文(Miyagawa , Berwick, Okanoya 2013)も出版することができた。 以上のことから、本年度は、博士研究員の雇用と目的の絞り込みにより当初計画に追いつくことができたと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は本研究計画の最終年度にあたる。達成目標として、ルール抽出をトリとヒトで測定する手続き、刺激のデザイン、ルール抽出の種差を明らかにし、ルール抽出に関連する神経情報処理を発見することを目指す。さらに、それらの知見から、言語の創発に致る認知特性の変化について仮説を創ることを目指す。 このため、規則学習(AABとABBの弁別)と埋め込み文法(AABBとABABの弁別)の2つの学習課題について、トリとヒトの認知方略の差異と、神経情報処理の差異を比較検討する。さらに、ルール抽出に作動記憶と系列操作能力がどのように関与するかを見るため、ヒトにおいては経頭蓋的直流刺激を、トリにおいては局所麻酔等を用いる。 これらの研究を進めるのと並行して、今年度出版した論文(Miyagawa, Berwick, Okanoya 2013)にスケッチされた形式の有限状態文法と意味の有限状態文法の層状構造によって言語が創発したというアイデアを実験に落とし込む考察を進めてゆく。これによって、本計画の先を見据えたまとめができるようにしたい。
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