2012 Fiscal Year Annual Research Report
年輪年代学の総合的研究-文化財科学における応用的展開をめざして-
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23240116
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
米延 仁志 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (20274277)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大山 幹成 東北大学, 学術資源研究公開センター, 助教 (00361064)
杉山 淳司 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40183842)
山田 昌久 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (70210482)
木村 勝彦 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70292448)
奥山 誠義 奈良県立橿原考古学研究所, 企画総務部, 主任研究員 (90421916)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 樹木年輪 / 年輪年代学 / 年輪気候学 / 編年 |
Research Abstract |
(試料収集と標準年輪曲線構築)ヒノキ科標準年輪曲線の広域ネットワーク内での類似度を検討し,青森~秋田,宮城~関東,中部~近畿~四国,四国~九州という大きく4つの共通した変動を持つグループに区分可能であることを示唆する結果が得られた。これは,産地推定に向けた基礎的知見として重要である。標準年輪曲線の延長については,17-18世紀にギャップが存在する江戸時代を対象に,弘前藩上屋敷(17世紀~19世紀、東京)などで,出土したアスナロ材を集中的に計測・検討した。その結果,数点の試料がギャップを埋める可能性が得られた。今後さらに試料を増す必要がある。 (応用:年輪考古学)青森県・十三盛遺跡から出土したアスナロ材製木製品の年輪年代調査報告書にまとめた。青森県・新田(1)遺跡出土アスナロ材が年代決定された。樹皮残存試料の年代から,これら2つの遺跡はほぼ同じ時期の遺跡であることを明らかにした。また,この結果は遺跡の年代観とも整合的である。(応用:年輪気候学)東北日本(スギ),中部日本(ヒノキ),朝鮮半島(イチイ,チョウセンゴヨウ)の標準年輪曲線を用いて主成分分析法を用いた気候復元を実施した。その結果,東北アジア全域における小氷期後半の春季気温が定量的に1年精度で復元され,日本列島と朝鮮半島での低温期の同調性が明らかとなった。例えば,天保の飢饉に当たる1833~1839年には日本,朝鮮半島ともに準十年スケールでの寒冷化が観測され,享保の飢饉に当たる1782~1787年では日本では寒冷化した一方で,朝鮮半島では平年より若干気温が高く凶荒記録も見出されない。さらにシベリア産カラマツ年輪の安定炭素同位体比を用いて乾湿指数の復元を行い,過去の強干ばつ記録と良好な対応を見出した。これらの成果を国際誌に出版した。(応用:年輪生態学)カラマツの年輪幅,仮導管細胞の変異をもとに虫害履歴の復元に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は当初計画から,編年学としての年輪年代学を確立するために(1)標準年輪曲線の構築と(2)その応用的展開を2大目標とした。いずれも当初計画通り進展している。進捗状況は以下のとおり。 (1)標準年輪曲線構築:ヒノキ科標準年輪曲線を過去2000年間にわたって構築する目処がたった。また試料数が格段に豊富な現生木標準年輪曲線の同調性から年輪広域ネットワークが4つの区分に分類されることが見出されたことは重要である。すなわちこの区分のいずれかで,クロスデートの成否(あるいは良否)が得られることで産地が示唆されるからである。 (2) 応用的展開:東北地方(十三盛,新田遺跡等),東京地域での年輪年代による編年研究が進展した。年輪気候復元では韓国の研究者との共同研究により東北アジア全域の気候復元に成功し,代表的な国際誌に論文を出版した。また安定炭素同位体比を用いた乾湿指数の復元に成功した。気温-年輪成長の相関関係の悪化により近年,年輪による長周期気温変動の復元に疑義が呈されており,一方,乾湿指数はそれに変わる復元指標として有力である。これはシベリア地域の環境復元の成果であり,東北アジアの気候場復元と相まって今後,さらに広い領域での地域間の気候変動の詳細な比較が期待できる。また,年輪生態学ではカラマツ虫害履歴の復元に成功した。このことは,年輪年代学が,基礎的な生態学的な課題にとどまらず,現代の林業にも役に立つ情報を提供できることを意味する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策:H25年度は計画期間4年の3年目となる。後半は当初計画通り,継続的に標準年輪曲線の構築を推進し,年輪年代学の応用に重点をおいた活動を行う。年輪気候学では,年輪ネットワークが充実したことを受けて,年輪安定同位体比による気候復元を,本邦産樹種で実施する。また,遺跡の年輪編年については,東京都内の遺跡の年輪編年が進展したことから,神奈川県・静岡県の遺跡から出土する年輪試料の編年を予定している。この調査で,中部・畿内と東日本との年輪ネットワークの類似性を検討するための橋渡しとなる試料が得られる。これは年輪ネットワークの空間分解能の向上に資するものである。また,H24.12に組織内研究会を開催し,北陸地方で多数の年輪を持つ木器試料を利用することで,遺跡の編年という応用面だけではなく,十分な試料数で質の高い標準年輪曲線を弥生時代まで遡る可能性があることが明らかとなった。そのための予備調査はすでに着手し,計画期間の後半で一気に進展させる。 問題点:当初計画で潜在的な問題点として想定された試料の獲得の困難さについては現在のところ発生していない。むしろ本科研発足以来,研究組織への年輪調査の依頼が増えており,今後は依頼を引き受ける際の事務,依頼試料保管等の体制を本学で整備することが急務となっている。
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Research Products
(16 results)