2012 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノム民俗植物学による古典園芸植物の文化財的意義の検証とその保全方策の確立
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23241076
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大澤 良 筑波大学, 生命環境系, 教授 (80211788)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
半田 高 明治大学, 農学部, 教授 (00192708)
小林 伸雄 島根大学, 生物資源科学部, 教授 (00362426)
水田 大輝 筑波大学, 生命環境系, 助教 (30595096)
田淵 俊人 玉川大学, 農学部, 教授 (70188407)
吉田 康子 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (50582657)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | サクラソウ / ツツジ / ハナショウブ / ゲノム解析 / 民俗植物学 / SSRマーカー / 古典園芸植物 / 遺伝資源保全 |
Research Abstract |
サクラソウでは、次世代シーケンサーによるmRNAの網羅的解析を行い、花器官由来の約76万リードの塩基配列を獲得した。園芸品種花色変異の機構解明のため、花弁色素の定性・定量解析を行った。その結果、petunidin配糖体1成分(A1)、malvidin配糖体1成分(A2)、kaempferol配糖体2成分、caffeoylglucoseが特定された。これらの成分について野生種と園芸種を比較したところ、A1とA2の量的変異が園芸化に伴って拡大していることが明らかとなった。 ツツジでは、江戸時代の彩色図版「津ゝし絵本」(国会図書館所蔵)に現代語訳を加えて復刻した解説資料を出版した。また、見染性品種を材料として、形態的分析と花器の形態形成に関与するMADS-box 遺伝子の解析を行い、花冠の持続性は花冠のがく化による可能性が高いことを明らかにした。また、ツツジ園芸品種群の一つであるハンノウツツジの成立起源について、形態調査とSSR解析に基づく調査を行い、ハンノウツツジは、ヤマツツジとサツキ野生種あるいは園芸品種との間の雑種起源である可能性が高く、その場合は花粉親がサツキ、種子親がヤマツツジとして成立した可能性が示唆された。 ハナショウブでは、東日本大震災で被災した青森県種差海岸において他植物が絶えているにも関わらずノハナショウブのみが生存し開花していたこと、これらの個体における耐塩性を根、葉について調べた結果、内陸他個体と比べ塩類を排除するATPase活性が高いこと、その場は液胞であり、塩類を処理すると液胞にNaイオンが蓄積することを組織化学的に証明できた。同時に、被災地においては「復興のシンボル」としてこれらのノハナショウブを保存していくこととなった。さらに、ノハナショウブは花器官などの観賞対象とする形質のみならず、環境適応性において地域的多様性を持っていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サクラソウでは、目標とした色素の量的変異の把握、ならびに関連遺伝子の特定がなされたこと、ツツジでは、古典品種の彩色図集を解読した資料を出版した。ハナショウブでは、新たなノハナショウブの自生地発見ができたこと、それらの個体は花色の変異に富むばかりでなく、不良環境抵抗性を保有することが明らかになった。これらの成果は花器官の形質の多様性を明らかにするのみでなく、不良環境抵抗性などの遺伝的多様性を明らかにできることを示唆したことになり、多様性の意味を広げたことになる。したがって、今後の研究範囲を形質のみでなく、機能性の多様性へと可能性を大きく進展させたことになる。また、門外不出の伊勢系、肥後系など新たな品種を導入、維持・保全できたことは、ノハナショウブの形質との関わりをより広く明らかにする可能性が大きく進展した。各植物種とも当初目的に沿って確実に成果をあげている。
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Strategy for Future Research Activity |
サクラソウでは、花冠における色素合成関連遺伝子および花器形態形成関連遺伝子の解析、およびサクラソウ遺伝子地図の作成とそれに基づく園芸化の経路の解析を行う。 ツツジでは、園芸的に重要なヤマツツジ列植物の野生種ならびに園芸品種群の成立起源に関して、アシタカツツジ、ミカワツツジ、フジツツジ、シナヤマツツジやウンゼンツツジの関与を検証する。 ハナショウブでは、江戸時代から関東地区に自生していた野生種ノハナショウブから多様な形態を持つ園芸品種群が成立した可能性が示唆されているが、本種の自生地は著しく減少していることから、関東甲信越で未調査の地域を早急に探索収集し、遺伝的な多様性調査する。また、日本各地に自生するノハナショウブに花型や花色などの観賞器官における栽培品種に共通する様々な変異、さらには不良環境抵抗性について重点的に調査する。また、伝統的な栽培品種、ノハナショウブの遺伝資源としての有用性について、末永く維持・保存・系統進化などの研究がスムーズに遂行できるようなデータベース化を促進する予定である。
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Research Products
(28 results)