2012 Fiscal Year Annual Research Report
中国における土地領有の慣習的構造と土地制度近代化の試み
Project/Area Number |
23242043
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
片山 剛 大阪大学, 文学研究科, 教授 (30145099)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 茂 大阪大学, 文学研究科, 名誉教授 (30087150)
田口 宏二朗 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (50362637)
稲田 清一 甲南大学, 文学部, 教授 (60221777)
荒武 達朗 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部 (総科), 准教授 (60314829)
大坪 慶之 三重大学, 教育学部, 准教授 (30573290)
|
Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2015-03-31
|
Keywords | 伝統中国 / 近代東アジア / 土地制度 / 開発史 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
アメリカ議会図書館で、1929年9月撮影の南京の空中写真、1934年作製の南京の1万分の1地形図等を収集した。これらは、長江中洲の一つである江心洲の開墾進展度の解析と南京市街地における家屋や耕地の分布の粗密の分析とを可能にし、これを通じて、1930年代半ば~40年代後半に南京で実施される土地調査・整理事業の対象地域について、事業開始前の自然・人文環境を把握することができ、大きな収穫となった。 台湾の国史館では、1930年代半ば~40年代後半の南京市第4区の所有権登記に関するデータの収集を継続した。サンプルとして紹介すべきものについての緻密な解読を進め、さらに解題を付して平成25年度にニューズレター等を通じて学界に提供する予定である。 南京では、1930年代半ば~40年代後半の文書(档案)資料を収集した。特に江寧区档案館では裁判文書の収集・解読を通じて、1930年前後における南京市政府の土地整理に対する政策の変化を知ることができたのは大きな収穫であった。また、南京市政府は1928年に、他項権利の一つである「永佃権」について、規定等で「永佃権」の術語を用いることは、農民が借地の状態であることを肯定することになるとの考えにもとづき、農民を借地農から自作農へ転換させる方向を推進するために、規定等では敢えて「永佃権」の用語を用いない方針を採用した。これは、当時の南京市政府が制定した諸規定を解析するうえで重要な知見となった。 広東省で実施した古老への聞取り調査では、「売買不可の村の土地」の存在という仮説を補強する有用な口碑資料を収集した。同時に、有力宗族が存在する村では、「村の土地」が次第に当該有力宗族の手に帰していく(血縁関係が地縁関係を凌駕していく)傾向があることも確認した。後者の傾向は、広東地域において「村の土地」が次第に消滅していく過程を考察するうえで大いに参考となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ワシントン・台北・南京に出張して行った文字・地図史料の収集は順調であった。ただし、収集すべき史料の量がきわめて多いので、収集から解析を経て学界に提供するまでに多少のタイムラグが生じているが、価値の高いものについては平成25年度に公表できる予定である。 農村での実地調査のうち、南京の中洲については、江心洲を第一候補に予定し、本年度に南京大学の協力を得て行政系統を通じた折衝を行い、予備調査を行う計画であった。しかし江心洲は現在、工業団地建設のために農家の立ち退きが進行中のため、条件不十分と判断して中止した。代わりに第二候補として考えていた、長江における面積最大の中洲である八卦洲で実施するために、行政系統を通じた折衝と予備調査を行い、平成25年度に実施する運びとなった。他方、広東省高要市金利鎮で計画していた実地調査は、広東省社会科学院ならびに現地政府の協力を得て実施し、古老への聞き取り調査で「売買不可の村の土地」に関する仮説の検証が順調に進んでいる。たとえば、「村の土地」は複数の小字(こあざ)の集合として存在する。そして、各小字の開発は集落に近くかつ開発が容易な場所から始まる。そのため、集落A・Bから遠い所では「村Aの小字」のあいだに「村Bの小字」が入り込むこともあり、「村の土地」はかならずしも一円的ではなく、飛び地的に存在すること等である。また、金利鎮における調査対象先の村の2500分の1の衛星写真を入手することができたのは、予想外の収穫であった。 以上から、おおむね順調に進んでいる状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
1930年代半ば~40年代後半の南京市街地の所有権登記および南京周辺の中洲の開発と「他項権利」発生に関する文献資料の収集・解読はおおむね順調に進んでいる。また、1930年制定の土地法で「他項権利」が法制化された背景のうち、〈20世紀前半の中国社会における「他項権利」の意義等〉についてはおおむね順調に進んでいるが、〈ドイツ租借地である青島で行われた土地行政における「他項権利」の取扱い方〉については、参照に値する先行研究や関連史料を見出すことができない状態である。引き続き探索を続けるが、場合によっては〈20世紀前半の中国社会における「他項権利」の意義等〉に重点を移すことを考慮している。 南京周辺の中洲を対象とする故老への聞取り調査および景観観察等の実地踏査に関しては、工業団地の建設が進行中の江心洲では不可能となったが、南京大学の協力を得て八卦洲を対象とする実地調査を平成25年度に実施する見通しが立った。八卦洲は江心洲とは歴史が異なるので、江心洲用の調査項目を八卦洲用に改訂するために、八卦洲関係の文献資料の収集・解読に力を注いで実地調査に臨む予定である。 平成25年3月の広東省高要市金利鎮調査において、調査地を対象とする2500分の1の衛星写真をデジカメ撮影することができ、現在の村の境界や小字レベルの土地の位置を同定することが可能となった。次回以降はこの衛星写真を活用することで、古老に案内してもらいながら行う実地踏査の質が各段に高まることが期待できるので、引き続き金利鎮において「村の土地」に関する研究を進める。 これまでの研究の成果を発表するとともに、研究の方向やあり方についてのアドバイスを提言してもらう場として、平成25年11月ないし12月にワークショップを開催する予定である。
|
Research Products
(12 results)