2013 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀前半のアメリカ合衆国における市民編成原理の研究
Project/Area Number |
23242044
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 泰生 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50194048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 勝郎 法政大学, 法学部, 教授 (70212090)
増井 志津代 上智大学, 文学部, 教授 (80181642)
荒木 純子 学習院大学, 文学部, 准教授 (20396831)
松原 宏之 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (00334615)
橋川 健竜 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (30361405)
肥後本 芳男 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (00247793)
佐々木 弘通 東北大学, 法学研究科, 教授 (70257161)
森 丈夫 福岡大学, 人文学部, 准教授 (90330894)
中野 由美子 成蹊大学, 文学部, 准教授 (40362214)
久田 由佳子 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (40300131)
金井 光太朗 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40143523)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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Keywords | 市民 / キリスト教 / 公共 / アンティベラム / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
19世紀アメリカ合衆国における市民編成原理の継続面と断絶面を検討するにあたり、市民社会そのものの性格がアメリカ合衆国でいかなるものと捉えられたかを再検討する作業が今年度は活発化した。万民の平等をうたった独立宣言により国家をスタートさせた合衆国においては、近代イギリスやドイツに成長したブルジュア市民社会・経済市民社会を規定したのとは別の市民編成原理が希求された可能性が考えられる。人種・エスニシティやジェンダーを異にする多くの集団が政治への参画をめぐり争いを重ねた合衆国では、宗教や哲学の領域における自由の概念をめぐる論争をも巻き込みながら、複雑な歴史が展開している。フランスの思想家トクヴィルが1830年代の合衆国を旅しながら思索を重ねたのは、そうした合衆国社会における新しい市民社会の誕生の姿であり、その教訓が母国フランスにどこまで適応可能かという問題であった。 25年度に開催された諸研究会で分担者は以上の諸点を集中的に討議した。まず5月26日から6月6日にかけてオハイオ州立大学歴史学部教授ジョン・ブルックを招聘し、東京大学アメリカ太平洋地域研究センター、同志社大学アメリカ研究所、日本アメリカ学会で報告をしていただいた。ユルゲン・ハバマスの公共哲学論およびヴィクター・ターナーの社会変動理論を援用する教授の議論は、異分野の研究者が共同で展開する本プロジェクトの方向性を再考するのに大きく役立った。こうした視点は北京大学史学部特聘教授王希氏を招いた研究会(2013年5月31日:東大駒場)、明治大学専任講師高山裕二氏を招いた研究会(2014年3月27日:箱根強羅)でも確認された。 このほか、増井志津代、中野勝郎が、8月から9月にかけニューヨーク、ボストンで資料調査を行い、また松原宏之は、2014年1月にワシントンDCで開催されたアメリカ歴史学会年次大会に参加し、米国における市民編成研究の最新の情報を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プロジェクト運営3年目にあたった25年度、研究会を隔月ペースで開催し続けることができた。とくに、エスニック集団あるいは地域ごとの市民編成原理をより大きな図式のなかで接続する試みが積み重ねられた。例えば25年6月来日したオハイオ州立大学ジョン・ブルック教授は、投票権を持つ白人男子と投票権を持たない白人女性およびマイノリティ集団が、公式と非公式の二つの道筋を通して19世紀前半の合衆国における政治空間に影響力を及ぼした可能性を指摘した。一方同年11月に来日したハーヴァード大学デヴィッド・ホール教授は、キリスト教の規範が社会を構成する大きな力を合衆国では有したと指摘したトクヴィルの市民社会論を引きながら、むしろ同規範が急進的な秩序の見直しを促し、合衆国社会を動揺させる力を潜在的に持ったことに注意を促し、19世紀前半の合衆国における市民編成原理は単線的ではなかったことをあらためて我々に考えさせた。25年度は、図像に照射される都市や国土のヴィジョンを市民編成原理の一つと捉えるデヴィッド・ジャフィー教授の研究会もあり、建国後の合衆国における市民編成が、多面的かつ多層的に行われた可能性が確認された。それらとフランスやイギリスにおける例との比較作業が26年3月の研究会では試みられた。比較政治史的な視野にたつそれらの議論がさらに深まれば、この時期の合衆国社会の編成・変容の実相が立体的に把握されると考えられる。 各研究分担者の個別業績に加え、共同研究の成果の一つとして、『アメリカ太平洋研究』(14巻、2014年3月)所収の書評フォーラムを挙げておく。そこでは、19世紀前半の合衆国における市民編成原理とプロテスタンティズムとの関係が宗教、公共哲学、地域研究の各視点から議論されている。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度に試みたフランスやイギリス他の諸国との比較を進める。それにより、アメリカ合衆国の市民編成原理が他の国々のそれとの間に持つ類似性と独自性を明らかにする。 海外の研究者との知見の交流も進める。まず6月上旬に米国コロンビア大学メイ・ナイ教授、シドニー大学カトリオナ・エルダー教授らを登壇者とする移民国家に関するシンポジウムをアメリカ太平洋地域研究センターと共催し、現代世界における移民政策の比較をとおした合衆国における市民編成原理の歴史的理解を深める。加えて、7月下旬にフロリダ州立大学エドワード・グレイ教授を迎え建国期合衆国の経済市民規範に関するセミナーを開催、12月上旬にハーヴァード大学ジョイス・チャプリン教授を招聘し18世紀・19世紀における人口動態調査に関するセミナーを開催、そして27年1月上旬にマサチューセッツ工科大学クリストファー・カポッツォーラ教授を招聘し合衆国における戦争と市民動員の歴史に関するセミナーを開催する。 これらの活動の一方で、各研究分担者は最終年度成果報告書を作成する。そのために9月8日~9日の予定で合同研究会を開催し、最終論文の途中経過報告を行う。その最終成果のまとめに必要な研究図書の購入とアメリカ太平洋地域研究センター図書室への収蔵公開も随時行っていく。以上の成果は26年年度末に論文集として刊行する予定である。
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Research Products
(29 results)