2011 Fiscal Year Annual Research Report
酸素同位体比を用いた新しい木材年輪年代法の開発とその考古学的応用
Project/Area Number |
23242047
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中塚 武 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
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Keywords | 年代決定 / 年輪年代法 / 酸素同位体比 / セルロース / 樹木年輪 |
Research Abstract |
本研究の目的は、樹木年輪に含まれるセルロースの酸素同位体比の経年変動パターンが、地域の気候、特に夏季降水量の変動を反映して、異なる個体や樹種の間でも、極めて高い相関を示すことに着目して、従来の年輪幅に代る酸素同位体比に基づく高精度かつ普遍的な木材資料の年代決定のための年輪年代法を確立し、更に、その考古学的な応用を図ることにある。そのため、平成23年度は、第一に、中部日本を中心とした地域で、現在から過去数千年に遡ることのできる樹齢の長い針葉樹を中心とした木材年輪試料を確保し、その年輪セルロースの酸素同位体比の経年変動を測定して、樹木年輪酸素同位体比の暫定クロノロジーをできるだけ長期間に亘って確立すること、第二に、確立したクロノロジーを使って、広葉樹材を中心とした考古学的資料への手法の応用を図ることに取り組んだ。 第一の目標については、平成23年4月当初、AD1~3,AD18~20世紀の約600年分しか完成していなかった酸素同位体比の暫定クロノロジーを、1年後には、BC5~AD3,AD11~20世紀の約1800年分にまで伸長することに成功した。平成23年度中に、過去4千年に遡れる木材年輪試料を確保できる目途を立てることができたので、平成24年度中には、過去4千年分の酸素同位体比の年単位での暫定クロノロジーが完成する予定である。第二の目標については、愛知県で採取されたAD2-3世紀頃の樹齢約40年の複数の広葉樹柱材の年輪セルロースの酸素同位体比を測定し、針葉樹の年輪で作成した酸素同位体比のクロノロジーが、広葉樹材にも適用可能であり、極めて高い精度(信頼度99.9%以上の確率)で1年単位の年代決定が可能であることが、実証できた。今後、酸素同位体比年輪年代法を考古学的に重要なさまざま資料の年代決定に、次々に応用していける展望が得られたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一に、平成23年度のうちに、BC5~AD3世紀、AD11~AD20世紀の約1800年間に及ぶ年輪セルロースの酸素同位体比の暫定クロノロジーを構築することに成功し、当初は3年以上掛かると思われていた、過去数千年に遡れる年輪セルロースの酸素同位体比クロノロジーの構築が、平成24年度には完了できる目途が立ったこと。第二に、広葉樹材など従来の年輪年代法の対象外の資料にも、本方法が適用可能であることが、証明できたこと。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には、平成23年度中に、既に確保、或いは確保の目途を立てた過去4千年に遡れる、木材年輪試料のセルロース酸素同位体比の分析を行い、過去4千年分の年単位での酸素同位体比クロノロジーの構築を目指す。また、そのクロノロジーを考古学的に重要な数々の資料の年代決定に応用して、新しい考古学の研究スタイルを構築する。本研究を効率的に進めるためには、数多くの試料を処理する多くの技術補佐員や、新しい研究を構想する博士研究員などのサポートが不可欠であり、研究の進展状況によっては、考古学への応用研究を加速度的に進めるために、平成25年度から、基盤Sなどのより予算規模の大きな研究への途中昇格を目指す可能性も検討する。
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