2012 Fiscal Year Annual Research Report
酸素同位体比を用いた新しい木材年輪年代法の開発とその考古学的応用
Project/Area Number |
23242047
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
中塚 武 総合地球環境学研究所, 研究部, 教授 (60242880)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 年輪年代法 / 酸素同位体比 / セルロース / クロノロジー / ヒノキ / スギ / コナラ |
Research Abstract |
平成24年度は、本研究の推進に際して、大きく2つの大きな問題がった。一つは、研究室の位置していた名古屋大学内の建物の機能改修工事に際して、年輪酸素同位体比の測定に不可欠な熱分解元素分析計と同位体質量分析計の移設を余儀なくされたこと、もう1つは、年度後半から、熱分解元素分析計の運転に不可欠なヘリウムガスの供給が世界的にストップしてしまったことである。主に後者の理由により、平成24年度の研究は、約半年間延長せざるを得なくなったため、ここでは、平成25年9月までの実績について述べる。 平成24年4月から平成25年9月までの間には、以下の画期的な研究の展開があった。第一に、中部日本の各地から得られた過去2千年以上に亘る、現生木、埋没木、古建築材、考古木質遺物などのさまざまなヒノキ年輪試料の年輪セルロース酸素同位体比の測定により、弥生時代から現在までの連続した酸素同位体比のクロノロジーが暫定的ではあるが確立した。このクロノロジーは、従来の年輪幅にもとづくクロノロジーと、1年の狂いも無く一致し、早速さまざまな中部・近畿地方の考古木質遺物の年代決定に応用された。その中では、同じ中部地方のヒノキの年輪であれば、わずか30年程度の年輪数のサンプルでも8割の確率で年代決定に至ることや、針葉樹はもちろん、落葉樹を中心にした広葉樹の年代決定にも高い確率で利用可能であることが証明された。第二に、福島大学の木村教授から提供された弥生時代前期の鳥海山の年代決定済みの埋没スギ資料群を用いて、縄文時代晩期の数百年に亘る年輪酸素同位体比のクロノロジーが確立され、早速そのクロノロジーは、新潟県青田遺跡の掘立柱建物群のコナラやクリからなる木柱列の年代決定に成功裏に応用された。これは、縄文時代の遺跡の年単位での年代決定に成功した日本初の事例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3年間からなる本研究の中間年であった平成24年度において、過去2千年に亘る年輪セルロース酸素同位体比のクロノロジーを確立することができ、その考古学的な応用可能性を検証できたこと、更に、縄文時代の長期に亘るクロノロジーの日本全国での確立にも道を開き、縄文遺跡の歴年代決定と言うこれまでにない研究成果が生まれ始めたことは、全て、当初の計画以上のスピードでの研究の進展であったと自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究は、研究に不可欠なヘリウムガスの供給停止と言う不測の事態に巻き込まれたため、半年間延長されることになり、本報告書を執筆している現時点において、既に、平成25年度の研究も終了している。その中では、平成24年度に得られた中部日本と東北地方日本海側の双方における、「弥生時代から現在まで」と「縄文時代」のそれぞれの時代における年輪酸素同位体比の長期連続クロノロジーを、更に延伸・高度化(多数の試料の測定によるクロノロジーの精度向上)すると共に、クロノロジーを拡充する地域を日本全国に広げ、その考古学的な応用も進展させてきた。平成25年度当初には、こうした方向への研究の推進が展望できた。
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