2011 Fiscal Year Annual Research Report
中間子束縛系生成反応と崩壊の同時測定によるハドロン質量起源の解明
Project/Area Number |
23244048
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
小沢 恭一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (20323496)
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Keywords | 実験核物理 / ハドロン質量起源 / カイラル対称性 / 対称性の自発的破れ / ω中間子 / γ線検出器 / 円筒型ドリフトチェンバー |
Research Abstract |
陽子や中間子などの質量起源の問題を含む強い相互作用の性質の実験的解明とそれを支配する理論(量子色力学:QCD)の研究は、近年の宇宙論・原子核物理学の重要な課題のひとつである。 本研究の目的は、原子核中での中間子の生成時の質量と崩壊時の質量の二つの測定を同時に行い、強い相互作用によって動的に中間子の質量が生み出される過程に対する明確な実験的知見を与えることにある。具体的には、茨城県東海村のJ-PARC実験施設において、π中間子ビームにより原子核中にベクター中間子(本研究ではω中間子)と呼ばれる性質の良い中間子を生成し測定を行う。 本年度は、主要な検出器である電磁カロリメーターシステムの製作に主眼をおいて計画を進めた。世界最高性能を達成するために東北大学と協力しBGO結晶を用いた大立体角γ線検出器として電磁カロリメーター(通称、BGO EGG)を製作した。本予算を用いた研究では、主に、光電子増倍管部分を担当した。製作は東北大学で行われ、研究者と研究補助の大学院生が東北大学に出張することで、東北大学チームと共同して作業した。完成したBGO EGGは、平成24年度に兵庫県播磨市のSpring-8実験施設に運ばれ、性能評価のためのテストとJ-PARCでの実験の基礎データとなる実験データ収集をγ線ビームを用いて行った。その結果、既にπ中間子崩壊を同定することに成功し、検出器の性能評価に必要なデータの収集に成功したことが示せた。 また、並行して、BGO EGG内部に設置する荷電検出システムの製作も行った。主に荷電粒子から成るバックグランド事象を削減するために製作したもので、これまでにない狭ピッチの円筒型のドリフトチェンバーを設計、開発し、製作した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な段階としては、γ線検出器及び荷電粒子検出器の製作、それらの性能評価、実際の物理データの収集・解析という段階があるが、現状で検出器の製作がほぼ終了し、性能評価が半ばまで終わっており、研究の計画としては、おおむね順調に進展していると言える。 まず、γ線検出器に関しては、東北大学との連携研究を進めることにより、予定より早く検出器を製作することが可能となった。また、γ線ビームを用いた先行研究が行われている東北大学やボン大学と実験のバックグランド事象について検討したところ、彼らの解析結果によりバックグランド事象が我々の想定より大きいことが判明した。このため、当実験で当初予定の統計誤差を実現するためには、主に荷電粒子から成るバックグランド事象を削減するために新たな検出器の導入の必要が生じた。この設計・開発ために、繰越手続きが必要となったが、平成24年度中に円筒型ドリフトチェンバーの製作を行ったため、平成25年度には、検出器を用いた性能評価・データ収集が可能であるため、大きな遅延とはならなかった。 製作したγ線検出器と円筒型ドリフトチェンバーは、どちらも世界最高の性能を有している。詳細な性能評価はこれからであるが、γ線検出器はエネルギー1 GeV程度までのエネルギー測定分解能で世界最高性能であり、円筒型ドリフトチェンバーは、世界でも類を見ない2mm程度の狭ピッチで斜めにワイヤを張ることに成功しており、標的周りの限られたスペース内でのビーム軸方向の位置測定分解能としては、世界最高の性能を有している。
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Strategy for Future Research Activity |
検出器の製作には成功したので、製作した検出器の性能評価用データの収集、物理実験の遂行が次の課題となる。性能評価用データの収集は、Spring-8実験施設で行う予定である。これは比較的自由にビーム照射が可能であり、また、J-PARCでの実験とほぼ同様の生成物の測定が可能であるからである。これにより、J-PARCでの実験のために、γ線検出器と円筒型ドリフトチェンバーの性能評価は終了する予定である。 また、Spring-8のデータ収集では、J-PARC実験の物理的な基礎データとなるω中間子の束縛状態に関するデータも収集する予定である。これにより、J-PARC実験の実験計画をより詳細に決定することが可能となる。 J-PARCにおけるビームタイムが施設の予算等の問題で限られており、本実験のビームタイムがいつになるかが、最大の問題であるが、検出器の準備が整っていることを基に、最速で実験遂行が可能となる計画を策定していく予定である。
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Research Products
(5 results)