2013 Fiscal Year Annual Research Report
赤外10フェムト秒パルス列による強相関電子系の電子-フォノンコヒーレント制御
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23244062
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岩井 伸一郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60356524)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米満 賢治 中央大学, 理工学部, 教授 (60270823)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 光誘起相転移 / 超高速現象 / 有機伝導体 / 遷移金属酸化物 |
Research Abstract |
1 1.5サイクル赤外7 fsパルスの発生;前年度までに進めてきた、1-2サイクルcarrier-envelope phase(CEP)安定化したパルスの開発に成功した。前年度までにパラメトリック増幅器によって発生した自己安定化したCEP制御アイドラ光を種光とし、中空ファイバー技術によって超広帯域(1-2.3μm)スペクトルを得ていたが、これをフーリエ限界である1.5サイクル(~7 fs)にまで圧縮した。このパルスは、試料表面において、10 MV/cm以上にも及ぶ瞬時強電場を実現することができる。 2 1.5サイクル赤外7 fsパルスによる電子・格子コヒーレントダイナミクスの駆動と観測;上記の1.5サイクル7 fs赤外パルスを用いた電子・格子コヒーレンスの駆動と観測実験を開始した。一次元の有機伝導体(TMTTF)2AsF6において、金属相を光励起した後、約50 fsの時間を要して周期18 fs(0.25 eV)の電子振動が立ち上がる様子を観測した。この結果は励起によって高周波の電子分極が生成された後、より低エネルギーの相関電子のコヒーレンスが自発的に形成されることを意味している。弱相関の半導体においても同様の状況で測定を行い、電子コヒーレンスの自己形成が強相関系特有のものであることを検証した。 3 理論;光励起の中心周波数より大きなエネルギーが電荷移動に伴って加わるような、大きな電場振幅をもつ光励起を連続波で起こすと、場合によって動的局在が起こることが知られていた。似た現象がパルス波でも起きることをEt2Me2Sb[Pd(dmit)2]2の光誘起電荷秩序融解過程で示した。これらの機構を解析することで、局在を起こすのは、連続波の場合は分子二量体の間の電荷移動を変調することで、パルスの場合は分子二量体内の電子遷移を制御することで、起きることを理論的に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 昨年度までにフーリエ限界1.5周期(7 fs)の超広帯域スペクトル発生行い、さらに分散特性の精密測定、10 fsまでの予備圧縮を経て、ようやく今後の本格的な圧縮を完了した。 この1.5サイクルの赤外パルスは、試料表面上において、瞬時電場強度10MV/cmを超えるが、この電場強度は世界最先端の高強度テラヘルツ光をも上回る。現在、ビームパターンの改良や更なる短パルス化により単一サイクルに近づけるとともに、高電場化を目指した改良に取り組んでいる。この新規光源は、本研究でこれまでに用いてきた、12fsに比べ、パルス幅、瞬時電場強度ともに進歩したものであり、本研究の目標である、電子コヒーレンスの駆動と観測をより強力に推進するものである。 2 上記で開発した新光源を用いて、強相関電子系特有の電子コヒーレンスとして新奇な現象を発見している。高エネルギー(0.89 eV)の励起は、通常の光キャリアに近い性質をもった素励起を生成しているのに対し、より低エネルギーの相関電子コヒーレンスが形成される様を実時間軸で観測したことは、まさに電子相関の効果を動的に捉えたと言え、本研究の目的の重要な部分を達成したと言える。また、金属相の励起によって、絶縁相(電荷秩序相)のギャップに対応する振動が観測されたことは、励起によって電子相関の効果が増大した可能性を示す。今後、このような相関電子コヒーレンスの形成がどのような物性変化をもたらすのかを明らかにできれば、革新的な結果と言える。 3 本年度は、励起強度が大きくなって初めて現れ、固体中で相互作用する電子が多く存在することが効いている現象を、模型に基づく理論計算で発見した。連続波の場合やパルスの場合について、また電子移動のネットワークの異なる場合について、この現象を解析しており、コヒーレント制御に向けて、順調に研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、新規開発パルスを用いて、理論的に予測されている、動的局在、負温度状態、光誘起超伝導などの可能性を探る。また、パルスの更なる短パルス化、高強度化を進め、瞬時強電場100 MV/cmを超える世界でも類を見ない超強光子場を固体試料中に実現する。 また、理論的には、強いパルスをあてたときに、光のもつエネルギーが、それぞれの物質にどれくらい吸収され、それが電子の運動や格子の振動などにどう分配され、どのように移動するかを、電子格子模型を使って計算する。その結果を解析して、電子移動パラメタや相互作用の変調として解釈できないか検討し、新奇な光誘起電子制御を提案する。
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