2011 Fiscal Year Annual Research Report
放射光X線回折を用いた強相関電子系物質の平衡状態の研究
Project/Area Number |
23244074
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
澤 博 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50215901)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉本 邦久 (財)高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (00512807)
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Keywords | 放射光X線回折 / 構造解析 / 単結晶構造解析 / 電子密度解析 / 強相関電子系 / 電荷・軌道秩序 / 分子性結晶 / 分子軌道観測 |
Research Abstract |
本研究は,最新の放射光X線散乱実験技術を駆使して、構造的観点から強相関物質の電子状態と量子物性の発現機構を明らかにすることを目的として、精密測定を目指した電子密度解析を行ってきた。単結晶を用いた放射光X線回折実験はSPring-8において、行っている。 今年度は、分子性導体の精密解析を行うことによって,主に物性を司るHOMOレベルの分子軌道が観測可能かどうかを検証した.最も古くから知られている擬一次元分子性伝導体の一つである-(TMTTF)2PF6を取り上げた.この系は,最近10年くらいの様々な研究によって-on siteの電子相関によるMott絶縁状態とsite間の電子相関による電荷秩序状態がある温度範囲で実現していることがわかっている,一方,中性子実験まで行った報告があるにも関わらず,この電子状態の変化は回折実験によって捉えられていなかった.我々は,放射光による測定と精密な解析によって,この電荷秩序を定量的に決定することができ,MRや電子スピン共鳴などの測定結果とほぼ同じ電荷分布を直接求めることに成功した.更に,この電荷の不均化がHOMO軌道の分布している分子内のC2S4部分に殆ど偏っていることが定量的に求められた. 一方で,銅酸化物における量子スピン液体の研究を行った.当初は精密解析を行ってその電子状態を明らかにする目的で研究を進めたが,この系の本質はフラストレーションによる乱れがCu-Sbの双極子配置に生じているということが,散漫散乱の解析によって明らかとなった.スピン液体のような量子液体状態は通常は乱れに対して弱く何らかの安定相に相転移するが,この系では特異的に,軌道とスピンの協力現象によって極低温まで量子液体状態が実現しているという極めて興味深い結果を得た.論文はScienceに受理され,印刷中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
放射光を用いた結晶構造研究の中で、単結晶を用いた精密解析を行うことができる装置は世界的に見てもあまり類を見ない。そのような中で、SPring-8において単結晶精密解析の測定が可能となり、有機系,無機系を問わず様々な試料について重要な成果が上がりつつある。Spring-8の放射光の特性と我々の装置立ち上げの経験とを鑑みて,このような短期間で重要な知見が得られていることは,当初の計画を超えて順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では,強相関物質中の平衡状態を明らかにするための超精密解析を行うこととなっており,この点については先に述べたとおり順調に進んでいる.一方,例えば超伝導のように本質的に乱れが内在していても量子状態が保持されているという,ギャップを持つ電子状態が系の本質を決定するということが分かってきた.このような系については,回折実験だけでは十分な物質の解釈を得ることができないために,ミクロなプローブと元素分析を組み合わせることによって,その物質の特性を議論する必要がある.特に,組成比による臨界点があるような物質における秩序変数を明らかにすることほ,強相関系の物質における量子状態の理解に必要不可欠であり,本年度からはこれらの方向も視野に入れた研究を進める計画である.
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