2012 Fiscal Year Annual Research Report
放射光X線回折を用いた強相関電子系物質の平衡状態の研究
Project/Area Number |
23244074
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
澤 博 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50215901)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉本 邦久 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (00512807)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 放射光X線回折 / 構造解析 / 電荷密度解析 / 電子相関 / 軌道液体 |
Research Abstract |
放射光X線回折を用いた精密解析の精度と効率向上に向けた実験を行う。本年度は、以下の 物質の平衡状態の観測を精密に行った。ここでは代表的な二つについて大きな成果を上げることが出来たので述べる。 一つ目は、量子液体状態を示す銅酸化物の構造物性研究である。2価の銅イオンはS=1/2のスピンをもっているが、三角格子を組んだフラストレーションによるスピン液体状態の報告が未だない。この候補物質について、ヤンテラーイオンである銅の軌道状態を電子密度解析によって明らかにしようと試みて実験を行ったところ、最初の想定とは全く異なり、銅の軌道がスピンと共に液体状態になっている可能性を発見した。この成果はScienceに掲載された。 二つ目は、黄色蛍光体の結晶構造の同定と発光機構の解明である。現在世界的に主流となっている白色LEDは青色LEDと黄色の蛍光体により作成されているが、色むらやまぶしさなどの影響から一般照明に十分普及していない。我々は、青色光を吸収せずに紫外光を黄色に変換する蛍光体新物質を発見し、結晶構造と結晶場の評価によって発光機構までを明らかとした。この性質は、平衡状態にあるEuイオンが複雑な電場勾配を感じることで、大きなストークスシフトを持つことにより実現していると説明される。蛍光体の設計指針が示されたことからも、本研究は新しい物質探索に大きな影響を与えることが期待される。この成果はNature Comms.に掲載された。 なお、以上の物質群の物性同定には本年度導入した元素分析装置が重要な役割を果たし、相分離や不純物による物性同定のミスを回避できたことを特筆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
超精密解析を行うための、様々な物質群の実験を行うことで全く新しい現象を発見することが出来たことが本年度の大きな実績であるが、結晶場の観点が物性を理解するうえで重要なパラメータになっていることが分かってきた。この観点から、例えば電子相関によるMott絶縁体のTi酸化物におけるd電子の軌道状態を精密に議論しようとすると、最近接の酸素のクーロンポテンシャルだけでは軌道状態が再現できないことが、精密解析の結果からわかってきた。これが、蛍光体の発光原理や軌道液体といったエキゾチックな物性の発現にも影響を与えていることから、精密解析の方向性が当初の予想よりもはるかに広く展開していることが分かってきた。これらの成果は、この分野の研究の方向性を大きく左右することとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、遷移金属イオンの軌道秩序状態、分子性結晶における分子軌道の空間分布状態などの実験結果が蓄積されつつある。いずれの結果も実験的には十分な精度があるにもかかわらず、これまで提唱されてきた結晶場の概念だけではその解釈が十分ではないことも明らかとなってきた。これらの解釈を進めるために、第一原理計算を行う理論研究者との議論を踏まえて、新しい物理の提案を行っていく。また、新たに見つかった量子軌道液体状態の精密な議論のための放射光単結晶解析を進め、この状態が超流動、超伝導、スピン液体に続く第四の量子液体であることを確かめる。
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Research Products
(16 results)