Research Abstract |
筆者は,クラスターの構造転移における遷移状態概念を超える化学反応論,フェムト秒時間分解光電子分光法による非断熱遷移における原子核波束分岐の直接観測の理論,化学反応における電子動力学,超ボルン・オッペンハイマー理論(電子・原子核同時量子動力学)など,新しい時代の化学動力学理論を先導してきた.その結果,最後に残された大問題の一つとして,タンパクなどの巨大な分子のダイナミクスの量子論,すなわち,多数の原子核の実時間量子論を最終的に完成させなければならない,との局面に立ち至った.本研究は,非常に多くの原子(1000原子を当面の目標とする)を含む分子が化学的相互作用をするとき,原子核の運動を量子論で扱うための「超多体量子論」を完成させ,多体化学反応動力学を飛躍的に発展・深化させることを目的とする. 幸い,長い時間をかけて取り組んできた「超多体半古典力学」が,最近ようやく完成した.これにより本研究の最大の課題を克服した.まだ,技術的に残された問題や応用に向けての調製の自由度が若干残っているが,原理的な部分の理論的決着をみた.これは,100年以上の歴史を持つ漸近理論(半古典量子論)と化学反応動力学の歴史において画期的な成果である.これは,シュレディンガー方程式を変換したAction Decomposed Function(ADF)方程式から,厳密解ではなく(厳密解はシュレディンガー方程式の解と同じ),近似解として超多体系に対して解くことができる解法を確立したものである. また,筆者らが開発してきた超ボルン・オッペンハイマー理論(非断熱電子動力学の理論)は,電子と原子核の同時量子動力学のための理論であるが,多重の擬縮重系への応用の一環として,電子励起状態における,プロトン・電子同時以降反応のメカニズムを解明し,新たな反応機構として提案した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
長い時間をかけて取り組んできた「超多体半古典力学」が,最近ようやく完成した.これは真に画期的な実用理論であり,今後化学反応動力学の分野を大きく書き変えていく可能性を持っている.課題研究開始1年目で,これが出来たのは,当初計画よりかなり早いと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
「超多体半古典力学」のさらなる検証と,実用上尾の問題点を点検したのち,その応用研究に入る.具体的には,(1)少数次元ではあるがカオス動力学のような難しい系を使って,理論を数値的に検証する.(2)タンパクレベルの量子動力学,特に構造転移(折れたたみを含む)における量子効果の検証の研究に着手する.(3)熱浴の中に置かれた化学反応系の量子理論を展開する.(4)超ボルン・オッペンハイマー理論で得られる,non-Born-Oppenheimer軌道(非古典力学的な運動)の量子化を行う.
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